日本文化論

学問本オーサービジット(筑波大学協力)

日本人を深く知るための「深層文化」を考える

~『日本の深層文化序説~三つの深層と宗教』を読んで

宗教学・日本文化研究 津城寛文先生+関西大倉中学校・高等学校

津城寛文先生 筑波大学 人文・文化学群 比較文化学類/人文社会科学研究科 国際日本研究専攻

第4回 美しい日本語は和歌から

津城先生:和歌は日本の頂点文化の一つと考えています。そこでみなさんに、知っている和歌を1人一つずつ出してもらいましょう。

 

女子生徒

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれてものちに会はむとぞ思ふ(崇徳院『詞花集』恋・228)

 

津城先生:流れていく滝に岩があります。岩が流れを二つに分かれさせています。この歌を詠んだ人が恋人と別れてしまうことを表しています。でも私たちもいつかもう一度遭いましょうという歌です。そういう恋の歌が私は好きです。

 

女子生徒

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む(柿本人麻呂『拾遺集』恋3・773)

 

津城先生:このは、ひとり寝の寂しさを歌っています。和歌って、恋歌、それもふわーとエロティックな恋歌が多いんです。ヨーロッパの詩なんかだと、もっと観念的になったり、あるいは露骨な恋歌になったりします。和歌は、繊細な感情教育になると言われることがあります。

 

男子生徒

玉の緒よ絶えなば絶えぬながらへば忍ぶることのよわりもぞする(式子内親王『新古今集』恋一・1034)

 

津城先生:詠み人は、賀茂神社の斎宮になった女性で、生きていると苦しいから死んでしまえ、みたいな激しい歌です。こんな歌を知ってるなんて素晴らしい!

 

男子生徒

天津風雲の通ひ路吹き閉ぢよをとめの姿しばしとどめむ(僧正遍照(12番『古今集』雑上・872)

 

津城先生:この歌は能にも出てきます。謡曲「羽衣」という、初心者にもとてもわかりやすい能です。他の能は退屈しても羽衣だけは退屈しないです。まあ退屈して寝ちゃうことはあるけれど、逆の言い方をすると、能を見ながら寝ることほど贅沢はないとも言えます(笑い)。みなさん、古語短歌、和歌をぜひやってください。最初は5・7・5の俳句から入るのがいいかもしれません。そして5・7・5・7・7と、日本語の美しさに触れて欲しいと思います。

 

連載つづく

 

興味がわいたら Book Guide

『菊と刀』

ルース・ベネディクト 長谷川松治:訳(講談社学術文庫)

70年くらい前に、日本語もできず、日本に来たこともない文化人類学者によって書かれた、日本論の古典。欠点を含めて、作品として味わう価値のある本です。

 

この本は、誤解を含めて、他者理解とはなにか、どうあり得るかというヒントを多く含んでいます。とくに、課題設定の仕方が、うまい。これはセンスの問題であり、著者が詩人であったことが、決定的です。鈍感な研究者は、何を研究しても、理解が鈍いが、繊細な研究者は、細かい材料を見る前に、何をどう考えるか、見通しができます。そのようなセンスのよさを、視点や課題設定の仕方から、学ぶことができます。作品として、物語として、見事である。

 

冒頭部分で、本書が明らかにしたい課題が、様々に言い換えられています。「生活の営み方に関する日本人の仮定」「日本人をして日本人たらしめているところのもの」「国民に共通の人生観を与える、焦点の合わせ方、遠近の取り方のこつ」「思想・感情の習慣」「習慣がその中に流し込まれる型、パターン」など。まとめると、日本的なパターンを見つけることが、『菊と刀』の課題です。

 

『菊と刀』からは、センスのよさを培うことを、再確認させられます。ベネディクトが採った方法は、文化人類学的なもので、研究対象は「日本人、日本文化」でしたが、他の研究対象も、センスよく扱うべきことを、この作品は例示しています。具体的な知識を得ようとしてこの本を読むと、著者の間違った解釈を学ぶか、あるいはそれを批判するだけか、どちらにしても、表面的な読み方になります。自分の関心のある対象を、どんな方法を使って研究し、どのような作品に仕上げるかの「考えるヒント」にしてください。

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「お迎え」されて人は逝く 終末期医療と看取りのいま

奥野滋子(ポプラ新書)

超高齢化を迎え、どう生きるかとともに、どう死ぬかを考えることが必要な時代になりました。死生観を考える参考になります。若い人でも、「なぜ生きるのだろう?」と悩む人には、おすすめ。

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『人類は「宗教」に勝てるか』

町田宗鳳(NHKブックス)

世界で起こる宗教的な紛争を、一神教世界の特徴とみて、それをどう超えるかを問うています。

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『「日本文化論」の変容』

青木保(中公文庫)

戦後の日本文化論が、時代ごとにどういう特徴を持っているか、わかりやすく整理したもの。

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