日本文化論

学問本オーサービジット(筑波大学協力)

日本人を深く知るための「深層文化」を考える

~『日本の深層文化序説~三つの深層と宗教』を読んで

宗教学・日本文化研究 津城寛文先生+関西大倉中学校・高等学校

津城寛文先生 筑波大学 人文・文化学群 比較文化学類/人文社会科学研究科 国際日本研究専攻

第5回 洋服を着ていても変わらない日本人の内面~高校生の質疑応答から

女子生徒:洋服がふつうの生活になっちゃったけど、どうして着物を着ないのですか。

 

津城先生:着物に着替えるのは簡単だけど、着慣れていないとちょっと勇気がいります。一般的な傾向としては、結婚式など、歴史を感じる儀礼色の強い催しでは、伝統的な服を着ます。または元気を出したいと思うと、よし今日は着物を着ていこうという気になれるようです。人は弱った時に伝統に還る傾向があるんです。海外を旅し、弱った時に食べたいと思うのも、味噌汁とかだいたいが伝統食。

 

女子生徒:でも洋服を着ていても、日本人の内面は変わらないと私は思います。

 

津城先生:一般に、外面より内面のほうが変わりにくいんです。例えば靴を履いているとき欧米人はかかとからカツンと音を立てながら歩きます。でも、日本人は元気な時は欧米人の真似をして歩けるけれど、ちょっと疲れると前かがみになって足を擦るようにして歩きます。これは昔の下駄などを履いた時の歩き方の名残ですね。欧米人の外面を真似ても、靴歩きの習慣が身体化していないから、自覚しないとできないわけです。もう1つ、内面的に変わりにくいものに、価値観があります。みなさん、「自由」「正義」「平和」のうち一番大事だと思うのはなんですか。

 

女子生徒:平和だと思います。

 

津城先生:面白いことに実は、欧米人にとって一番価値があると思うのは「自由」、イスラム圏の人は「正義」、日本人は「平和」なんです。イスラムは神の名において不正は絶対許さない、欧米人はなにより自由を謳歌したいという気持ちが強い。同様に日本人は平和が一番、と思うのでしょう。日本人がまあまあ平和にしましょうよと言っても、イスラム圏の人の正義観では納得しないということがあるんですね。

 

おわり

 

興味がわいたら Book Guide

『菊と刀』

ルース・ベネディクト 長谷川松治:訳(講談社学術文庫)

70年くらい前に、日本語もできず、日本に来たこともない文化人類学者によって書かれた、日本論の古典。欠点を含めて、作品として味わう価値のある本です。

 

この本は、誤解を含めて、他者理解とはなにか、どうあり得るかというヒントを多く含んでいます。とくに、課題設定の仕方が、うまい。これはセンスの問題であり、著者が詩人であったことが、決定的です。鈍感な研究者は、何を研究しても、理解が鈍いが、繊細な研究者は、細かい材料を見る前に、何をどう考えるか、見通しができます。そのようなセンスのよさを、視点や課題設定の仕方から、学ぶことができます。作品として、物語として、見事である。

 

冒頭部分で、本書が明らかにしたい課題が、様々に言い換えられています。「生活の営み方に関する日本人の仮定」「日本人をして日本人たらしめているところのもの」「国民に共通の人生観を与える、焦点の合わせ方、遠近の取り方のこつ」「思想・感情の習慣」「習慣がその中に流し込まれる型、パターン」など。まとめると、日本的なパターンを見つけることが、『菊と刀』の課題です。

 

『菊と刀』からは、センスのよさを培うことを、再確認させられます。ベネディクトが採った方法は、文化人類学的なもので、研究対象は「日本人、日本文化」でしたが、他の研究対象も、センスよく扱うべきことを、この作品は例示しています。具体的な知識を得ようとしてこの本を読むと、著者の間違った解釈を学ぶか、あるいはそれを批判するだけか、どちらにしても、表面的な読み方になります。自分の関心のある対象を、どんな方法を使って研究し、どのような作品に仕上げるかの「考えるヒント」にしてください。

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「お迎え」されて人は逝く 終末期医療と看取りのいま

奥野滋子(ポプラ新書)

超高齢化を迎え、どう生きるかとともに、どう死ぬかを考えることが必要な時代になりました。死生観を考える参考になります。若い人でも、「なぜ生きるのだろう?」と悩む人には、おすすめ。

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『人類は「宗教」に勝てるか』

町田宗鳳(NHKブックス)

世界で起こる宗教的な紛争を、一神教世界の特徴とみて、それをどう超えるかを問うています。

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『「日本文化論」の変容』

青木保(中公文庫)

戦後の日本文化論が、時代ごとにどういう特徴を持っているか、わかりやすく整理したもの。

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