モバイルコンピューティング/位置推定・位置情報サービス

屋内でスマホの位置を推定する技術 磁気の力で誤差数十センチ!

梶克彦先生 愛知工業大学 情報科学部 情報科学科

モバイルコンピューティング研究では、どこでも使えるコンピュータ環境を整えるための研究をしています。位置情報の推定もその一つ。スマホの様々な機能や環境の特性をうまく利用すれば、GPS電波の届かない屋内でもスマホの位置が推定できるんです。梶先生は、高精度な位置推定技術を研究開発し、屋内でも誤差たった数十センチという世界を実現しようとしています。

 

ルート検索やナビゲーションなど、私たちの生活に広く浸透しているスマホの位置情報サービスは、使わない日はないほどです。屋外では、人工衛星から送られてくるGPS電波をとらえる角度によって位置を特定しています。しかし屋内では、この電波は建物の壁に跳ね返されて弱まってしまうため、なかなかうまく位置推定ができないという問題があります。

 

そこでスマホに搭載されている、加速度センサー、角速度センサー、気圧センサー、Wi-Fi、磁気センサーといった様々なセンサーを役立てて、スマホの位置推定をしようという研究をしています。

 

スマホを身につけて歩くとしましょう。一歩進むごとの身体の上下運動に合わせて、スマホも垂直運動を繰り返します。このとき、加速度センサーはスマホがどれくらいの速度変化を伴って動いたかを感知します。一歩ごとに周期的な加速度変化が現れるため、そこから歩数がわかります。スマホを持ってぐるっと曲がれば、角速度がわかり、そこから進行方向がわかります。エレベーターで上に移動すれば、気圧センサーが気圧の変化を感知するので、上下の移動がわかります。しかしこれらでは、ある地点からどのくらいの距離を、どちらの方向に移動したのかということはわかりますが、絶対的な位置はわかりません。

 

屋内の絶対的な位置を知るためにはWi-Fiと磁気センサーの力を借ります。実際に通信に使っていなくても、スマホは近くに飛んでいる様々なWi-Fi電波を感知しています。また、建物の鉄骨には自然に発生した残留磁場が存在していて、場所ごとに全く異なる磁気を発しています。そこで、あらかじめ、場所ごとのWi-Fiや磁気の特徴や強度を観測して、データベースを作っておきます。そして、実際に位置を知りたいとき、今いる場所のWi-Fiや磁気の特徴と最も似ているものをデータベースの中から見つけ出し、位置を特定することができます。しかしこれらのセンサーを組み合わせても誤差は5メートルもありました。

 

だったら、この特徴ならこの場所だ!とピンポイントでわかるような個性的な磁場を作りだしてしまえばいいのではないかと考えました。そこで開発したのが回転磁石マーカーという小さな装置です。

 

この装置に取り付けられた棒磁石は一定の速度でぐるぐると回転しており、回転速度によって磁気の強さを変えることができます。マーカーごとに特徴的な磁場を作り、一定間隔で建物の中に置いておけば、どのマーカーの近くにスマホがあるのかがわかります。磁石とスマホの距離によって磁力が異なるため、どのくらいの磁力を感知したかによって距離がわかるのです。また、棒磁石がスマホの方を指しているときに最も強い磁気が観測されるため、マーカーに対するスマホの方向もわかります。このように、距離や角度を特定していくことで、屋内にいても誤差20センチ未満という高精度な位置推定を実現しました。

 

これなら、災害の時にスマホを通して迅速に避難誘導をしたり、商品棚の前に立っている人が検索をしたりQRコードを読み取らなくてもピンポイントでスマホに広告を送るということもできるようになり、様々な可能性が広がっていきます。

 

興味がわいたら

『ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険』

ジョン・ハンケ(講談社)

IngressやポケモンGOを作ったナイアンティック社CEOのジョン・ハンケの自伝です。

 

ポケモンGOがもたらした、世界中の人を物理的に動かすという位置情報ゲームのインパクトは皆さんご存知の通りと思います。もともとジョン・ハンケはGoogle社に勤めており、自宅に居ながらにして世界中のどこへでも行けるようにするバーチャルトラベルシステム Google Earthを作った人です。ポケモンGOとは対極にあるシステムです。それを作った人が、何を考え、何を重要と感じ、今、人を動かす仕組みの可能性を信じて突き進んでいるのか。熱いプログラマの哲学は高校生の皆さんにも大いに参考になると思います。

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『観察の練習』

菅俊一(UMABOOKS)

日常に潜むアイデアの種を発見する練習として最適です。当たり前を当たり前のまま受け入れるのではなく、そこに意識を向けてみるという行為は、どのような道を行く人にも身につけてもらいたいです。

 

日常をなんの疑問もなく受け入れてなんとなく過ごしている人や、授業の時間が勉強をする時間でそれ以外は頭を使わない、というタイプの人は多いと思います。私自身もそうでした。しかし、日常にも意識さえ向ければ様々な面白い事象が転がっています。この本ではそのような事象の一つ一つを、1枚の写真と少しの文章で紹介しています。常に考え続け、様々な角度から物事を捉えるトレーニングを行うと、思考の幅が一気に広がり、様々な事象に対する自身の解釈や意見を持てるようになります。

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『失敗から学ぶユーザインタフェース』

中村聡史(技術評論社)

世の中に多く存在するユーザインタフェースの失敗例が事例豊富に紹介されており、ぱらぱらと写真を見るだけでも面白い本です。役に立つとはどういうことかという問を常に心に留めるきっかけになりました。

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『ヘンな論文』

サンキュータツオ(角川文庫)

芸人さんがヘンな論文を探してきては紹介しています。何が研究になりうるのかという堅苦しいことが全く必要ない、とわかります。

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梶克彦先生インタビュー