HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)

人工知能・ロボット研究から、ヒューマンインタフェース研究へ。興味を広げて、創造できる世界を広げていくのも楽しい

尾形正泰さんインタビュー

産業技術総合研究所 情報技術研究部門 メディアインタラクション研究グループ 研究員

◆先生はどのような研究をされていますか。

 

もともとは、コンピュータと人間のつながりをデザインするヒューマンインタフェースという学問が、ソフトウェア・ハードウェアの両方の側面を考えながらコンピュータの中でも人間に触れる部分を設計していました。

 

今までは、ソフトウェア・ハードウェア・ユーザインタフェース・デザインなどを含めて、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)という分野になっています。ヒューマンインタフェースの研究では「タンジブル(Tangible)」や「実世界指向」といって触れたりロボットのように物理的な作用をする情報提示があるほか、最近では「身体拡張(Augmented Human)」といって人間の身体能力をコンピュータやロボットで増強する研究も盛んです。その中でも、私はロボットで用いられるようなセンシング(センサを用いた計測)、アクチュエーター(モータのような物を動かす動力)、3Dデザインと電子基板設計などを組み合わせることで、人間の身体に装着するデバイスや、磁石の力で紙を動かす仕組みを生み出しました。

 

◆そのような研究テーマはどのように見つけたのでしょうか。

 

もともと人工知能とロボットに興味があったため、コンピュータを操作することよりも、コンピュータが物理世界の中でどのようなサービスや仕事が実現できるのかを考えていました。大学の授業と研究室でロボットを製作した経験を通して、頭で考えるよりも実際に動くロボットや知能を作るのは大変難しいということを学びました。

 

ロボットを作る上で必要になるのが、外界を知覚するためのセンサです。ふつうはカメラを使いますが、超音波が反射して戻ってくる時間から距離を計算する超音波センサというのを大学で使いました。大学院に進んでから、赤外線が反射して戻ってくる光量で距離を計算する小型の赤外線センサというのを見て、もしかしたら体に装着するような小さなロボットに使えるかもしれないと思ったのが最初でした。最初は指輪型のロボットを製作して赤外線センサを使っているうちに、手の動きのデータや、皮膚の変形のデータもわかることに気付きました。時間はかかりましたが、この気付きによって皮膚をトラックパッドのようにして操作できるインタフェースの研究にたどり着きました。

 

最初はうまく行かなかったものもあります。ロボットで物を動かさなくても、動かしたい物が直接動けばいいのでは?と思ったのが元になり、紙そのものを動かすアイデアを思いつきました。テーブルの上に穴の空いたパネルを置いて、パネルの穴に繋がったホースに空気を吹き込んで紙を動かそうとしたのですが、これはまったくうまくいきませんでした。その1ヶ月後、マイクロソフトの研究所にインターンに行ったとき、研究者の福本さんに相談したらすぐに「磁石でやったら?」とアドバイスを貰ったのがきっかけとなり、磁石の力で紙を動かす仕組みを作り上げることができました。

 

 

◆この分野に関心を持った高校生がより深く知るための具体的なアドバイスをお願いします。

 

私はもともと人工知能・ロボットの研究をしたくて、大学ではヒューマンロボットインタラクション(HRI)の研究室に所属しましたが、1年が経ってから興味があるのはヒューマンインタフェースの研究だとわかりました。今までの研究の発想が出てきたのは、研究室のテーマであるロボットの研究から外れていたとしても、ヒューマンインタフェースの研究を行いながら、研究室の先輩などが持っていたロボットの知識を吸収して活かせた結果だったと言えます。

 

今はAIが流行りですが、私が高校生の時は人気がなく、80年代にあった人工知能ブームが過ぎて旬が終わった学問のように言われていました。AIなどの現代の流行は理解しつつも、自分が本当に興味を持ったテーマを突き詰めてみるのもいいと思います。もしかしたら、あなたが大人になったときにそのテーマが主流になるかもしれません。私は人工知能・ロボットから始めて、ヒューマンインタフェースの研究をしていますが、コンピュータが物理世界を制御することを考えていくうちに物理学にも興味を持つようになりました。いろいろなことに興味を持ち続けることで、自分が理解できる世界、創造できる世界を広げていくのも楽しいですよ。

 

相談はメールでどうぞ(masa@masaogata.com)。訪問したい場合もぜひご相談ください。

 

◆高校時代は、何に熱中していましたか。

 

学園祭のパンフレットをデザインしたり、自作PCでLinuxサーバを作ったりしていました。高校2年生(2005年当時)のときは教育課程にプログラミングはなかったのですが、3年生の先輩が受けていた情報の授業では冬休みの課題で「C言語」が出題されました。まわりの人で私が一番コンピュータに詳しかったので、少しだけやってくれないかと頼まれました。「*」記号を画面に並べて三角形を表示するような課題が10個ほどありました。私もプログラミングは経験がなかったのですが、年末年始も部屋にこもって自習しながら解き進めました。勉強して高度なことができるようになるとどうしても使いたくなり、三角形の大きさを変えるとか、便利な(余計な)機能も入れて、完成したプログラムを自信満々で先輩に渡しました。翌週になって先輩の元気がないので理由を聞いてみると、余計な機能が仇となって後輩に頼んだのが先生にばれてしまったようでした。結果的に先輩の成績は下がったのですが、私はこのお陰でC言語をほぼ習得したので大学の授業は余裕でした。

 

◆こちらも記事も読もう

GUGEN2014大賞受賞、赤ちゃん研究から生まれたおしゃぶりセンサのこれから

GUGENというハードウェアコンテストで優勝したときの記事です。

 

尾形先生のHP

 

興味がわいたら

『アンドロイドは人間になれるか』

石黒浩(文春新書)

コンピュータが物理世界を動かしたり、情報が身体を持ったりというテーマを突き詰めていくと、最後に行き着くのはロボットかインタフェースかのどちらかになると考えています。石黒先生はロボットの可能性を突き詰めた研究者であり、アンドロイド研究の第一人者です。アンドロイドの研究がもたらす世界観は、形こそ違うけれどもヒューマンインタフェースやHCIで実現される未来でもあります。コンピュータと人間の関係性を考える哲学の本としてお薦めします。

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『誰のためのデザイン?』

ドナルド・ノーマン、岡本明・安村通晃・伊賀聡一郎・野島久雄:訳(新曜社)

コンピュータを含めた人工物としてのインタフェースについて、デザインと人間行動・認知科学の点から書かれています。すべてのコンピュータ科学者が読むべき本であり、人が触れるものすべてのデザインにも通じるテーマです。

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『ライト、ついてますか 問題発見の人間学』

ドナルド・C・ゴース、G.M.ワインバーグ、木村泉:訳(共立出版)

人はなぜ問題を抱え、解決できないのかについて、ユニークな題材を使って思考実験を行っています。見せかけの問題定義を鵜呑みにするのではなく、真の問題を発見することが大切だと気づかせる本です。本書の問題提起は研究の本質そのものであり、人間が触れたり関わるものを設計するための教養を教えてくれるでしょう。

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『カッコウはコンピュータに卵を産む』

クリフォード・ストール、池央耿:訳(草思社文庫)

タイトルも古臭い表紙も現代的ではないがお薦めです。インターネットがまだ普及していない(スマートフォンも当然ない)時代のアメリカを舞台にしたハッカーとの戦いが描かれており、パソコンと、インターネットの原型ともいえる古典的なマシンの操作場面が面白いです。

 

高校生のときに読んだ衝撃をいまでも覚えています。この本を読んで初めて、コンピュータの中に入り込んで問題をあぶり出していくハッカーという存在を知りました。著者である天文学者は多才な人物で、天文学者であるはずなのに、計算のためにコンピュータに精通したハッカーであり、さらにヒッピー文化にも染まっている点では、同様にハッカー文化とヒッピー文化に密接な関係があったスティーブ・ジョブスにも匹敵する凄さです。この本を読んだことで研究者がかっこいいと思ったし、コンピュータを自由自在に扱うことがクールだと思いました。近所の古本屋で上巻を見つけ、下巻は図書館で借りてきた記憶があります。高校生や大学生のうちに将来の刺激になる本と出会ってほしいです。

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