生命情報科学/バイオ情報学

研究は料理と一緒。素材を活かし、新しい技術=調理器具で革新的なレシピを考える!

大上雅史先生インタビュー

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系

◆先生の研究について、改めて教えてください。

バイオインフォマティクスという、生物学のデータから未解明な生命現象を解明する学問的方法について研究しています。

 

ヒトの体は10万種類以上のタンパク質が、様々に働いて成り立っています。タンパク質は単独で機能するものもありますが、体の中で出会いが起きて、くっついたり離れたり=相互作用しながら、機能を発揮するものが多いです。私は、このタンパク質の相互作用(protein-protein interaction, PPI)を、計算機で予測する技術を開発しました。

 

10万種類以上のタンパク質について、その組合せを単純に見ると、10万C2≒50億組の可能性があります。10万種類すべてを知らなくてもよい、例えば1000個のタンパク質についてPPIの可能性を調べたい、といった状況でも、1000C2≒50万組です。1組の計算に1分かかっていては、50万分=およそ1年かかってしまう見積りです。これでは意味がないので、どうにか高速化ができないか考えました。幸いにも計算機が進化しており、日本にも世界有数のスーパーコンピュータが開発されています。またGPUという科学技術計算用の加速ボードも使えるようになりました。高度な実装が求められますが、それを乗り越えて、最新の計算機をフルに使いこなすPPI予測技術が開発できました。

 

◆研究テーマをどのように見つけたのかを教えてください。

 

私は高専にいたので、高専5年(=大学2年相当年)にはじめて研究に関わりました。電子情報工学科で、生物学の授業は5年間に一切無く、しかし卒業研究で「バイオインフォマティクス」という分野があることを知り、生物なのにコンピュータ!?面白そう!!と、のめり込んでいきました。当時は遺伝子発現データを使って、疾病の種別を機械学習技術で予測する研究に取り組んでいました。眼の前の生命データから、生物学の新しい知見を引き出すこと、また引き出すための技術を開発することがバイオインフォマティクスの役割です。

 

研究では、今手元にある素材でどう料理できるかを考えることも大切ですが、こんなすごい調理器具があったらこんな凄い料理ができそうだというのを、考えることも大切です。私はスパコンという言葉の響きに憧れて大学ではバイオインフォマティクスと超並列計算を両輪で進めている研究室に進みました。今のPCだったらこういうことができる、スパコンだったら~、5年後のスパコンだったら~、10年後のスパコン(スパコンという形をしていないかもしれませんね)だったら~、と、想像しながら研究を進めています。バイオのデータでも同じです。実験技術は凄いスピードで進化しており、新しい技術で新しいデータが次々と産まれています。新鮮で多彩な素材を活かして、取り揃えた調理器具を的確に使い、今までにない革新的なレシピを考え、料理として実現させる。それが研究だと思っています。

 

◆この分野に関心を持った高校生がより深く知るためのアドバイスなどをいただけますか。

 

バイオインフォマティクスや大上の研究について知りたいことがありましたら、ohue [at] c.titech.ac.jpまで。平日日中であれば直接の対応も可能ですので、希望される方はまずはメールでお問い合わせください。

 

バイオインフォマティクスを知るために、バイオインフォマティクスのゲームはいかがでしょうか。RNAとよばれる生体内分子の平面的なカタチを当てるゲームで、「EteRNA」というものがあります。

詳しくはこちら→https://eternagame.org/web/

 

◆高校時代は、何に熱中していましたか。

 

楽器を吹くのが好きで、一般社会人の楽団に所属していました。全日本アンサンブルコンテストで金賞を受賞したことが一番の思い出です(高専4年時)。当時は研究に関わってはいなかったのですが、研究に携わるようになってから考えると音楽と研究は類似の点が多いなと感じます。技術を磨くことも大事ですが、何より音楽を楽しむことが重要です。研究だって楽しくないと続きません。自分が面白いと思えるものがあることは幸せなことです。

 

ところで、私が高校生の頃にNHKで「ピタゴラスイッチ」の放映が始まりました。当時、すごい番組だと思ったものです(今でも思っています)。ピタゴラ装置が大好きで、よく見ていました。聞けば「考え方」を育むための番組なんだそうです。張りめぐらされる伏線、読めない展開、爽快感。研究も似たところがあるなと思います。地道な作業がほとんどですが、新しい発見をしたときの感覚は、ピタゴラ装置の道のりを経てゴールに至る瞬間にも似ているかもしれません。

 

◆先生が指導に関わってきた研究室の卒業生は、どのような仕事をされていますか。

 

ITシステムを構築する企業や、ウェブ系IT企業、IT系のメーカー、ITベンチャーが多いです。バイオの知識が直接役に立っているケースはレアな方ですが、膨大なデータを並列計算で解析するような経験は、企業でも役に立っていると聞きます。バイオ系の知識がそのまま役に立っているケースとして、医療系企業に入ったり、ITベンチャーで生命データの業務にあたることもあります。

 

◆研究室での学生指導はどのようにされていますか。

 

社会に出ても通用する技術を身につけることに重きを置いています。研究の内容だけでなく、プレゼンテーションや、コミュニケーション能力、読み書きデザイン能力、進捗マネジメント、報告連絡相談など、すべて社会に出てからも要求されます。

 

◆大上先生のHP

http://www.bi.cs.titech.ac.jp/~ohue/

 

◆先生の記事はこちらもどうぞ

◇第30回 リバネス研究費 日本マイクロソフト賞 採択者インタビュー

情報科学と生命科学をつなぐ開発者を目指して

~「Microsoft Azure」で誰もが使えるタンパク質間相互作用予測システムを作る~

 

マイクロソフト社お客様事例として、東京工業大学が紹介

 

興味がわいたら

『シュタインズ・ゲート』『シュタインズ・ゲート・ゼロ』(TVアニメ)

アニメとして単純に面白いですが、科学の要素があちこちにあります。時間移動が可能でパラレルワールド説が仮定された中で、なぜこの現象に至るのか・伏線があったのか、考えながら視聴すると楽しいです。あまりバイオインフォマティクスとの直接の関係はありませんが、脳科学と情報科学が関係しており、境界分野の楽しさを味わえると思います。

 

『絵でわかるスーパーコンピュータ』

姫野龍太郎(講談社)

スパコン「京」開発当事者が、仕組み、役割、歴史、応用、可能性について語ります。

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『空想科学読本』シリーズ

柳田理科雄(KADOKAWA)

私が小学生の頃にハマった本です。アニメや漫画、特撮、SFなどについて、科学的に考えてあり得ないことを無理やり科学的に考察する本です。

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『図解アリエナイ理科ノ教科書』シリーズ

薬理凶室(三才ブックス)

ややマッドサイエンス感の強い本ですが、学校の教科書には書かれないようなネタが多くて面白いです。

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『生物とは何か? ―ゲノムが語る生物の進化・多様性・病気』

美宅成樹(共立出版)

ふつうの生物学とはちがう、生命をデータから模索するということについて学べます。生き物は「ゲノム」によってすべて決められていますが、「ゲノム」の中にいったいどのようなことが書かれているのか、「ゲノム」に書かれていることはどのように進化し獲得されていったのか。生物学の教科書にはない、新たな視点によって書かれる生物学は、とても新鮮に映るでしょう。

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高速計算でタンパク質の複合体形成を予測!

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