タイムトラベルは可能か

~その実現に向けて研究する大学も紹介

今井元先生 元日本女子大学 理学部

第4回 人工冬眠で30年後の未来へ

未来へ行く新しい方法として人工冬眠が登場します。これはタイムマシン、タイムスリップとは全く違ったものです。人工冬眠は、冬になると動物がその期間何もいないで眠ることを、人間に適応したものです。冬眠中は活動を抑えるために体温を低くします。人間の体も代謝活動をすることでエネルギーを使うわけですが、体温を下げ、代謝活動を抑えるとエネルギーを使わずに過ごせることになります。温度加速といい、高温になると反応が速くなり、低温にすると遅くなります。この場合、年を取ることが遅くなります。ということは、冬眠に入るときの年齢を維持しながら時が進み、目が覚めると未来の世界にいるということになります。

 

この人工冬眠とタイムマシンを組み合わせたのが、ロバート・A. ハインラインの『夏への扉』という小説です。未来へ行くために時間を遅くするということを、冬眠という形で実現するのです。

 

この小説では、30年間人工冬眠をした主人公が目を覚ますと、自分が想像していた状況とは違う世の中になっていました。このことに疑問を感じ、調べていくと、仲間に裏切られたことを知りそれらの者に復讐をするために、冬眠をする前に戻るためにタイムマシンを使うことになるのです。このマシンは一方向の移動しかできないので、また30年後に戻るには一度使った人工冬眠を利用することになります。ところで、この『夏への扉』というタイトルですが、主人公の相棒の猫が冬になると暖かい夏の世界を夢見て、家じゅうの扉を開くことに因んでつけられているようです。人間のすさんだ世界と猫の自由奔放な生き方の対比がほのぼのとします。

 


ここまで、過去と未来への旅行ができるかということを、現在の科学を参考にして説明してみました。これらの作品を楽しむためには物理学、地学、化学、歴史、語学などの知識を持てば持つほど、考えが深まり、より興味深くなります。大学受験に不必要な科目はえてして勉強しなくなりがちですが、発想の転換をするためにはヒントになることがたくさんあります。例えば、商談や技術交換を外国の方たちとしなければならないとき、こうした知識が役に立ちます。話の繋ぎに入れることで清涼剤となって交渉をスムーズにすることでしょう。

 

最後にひとこと。紹介しました小説や映画でも、またそれ以外でも、熟読するとあるいは何度も見ると、矛盾に気づくと思います。その矛盾を見つけ、考えることは大切であり、新しい発想を産むことになると思います。また、ストリー展開に無理がある作品、作者が手を抜いている、特に後半になってくるとそのような傾向にある作品などが時々あります。一度分析してみることを勧めたいと思います。

 

連載つづく・・・

 

今井先生 プロフィール

今井元先生 元日本女子大学理学部/元富士通

 

香川県立丸亀高等学校卒、東京大学工学部電気工学科卒、東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻修了。株式会社富士通研究所を経て日本女子大学理学部教授、現在名誉教授。

 

専門は、半導体工学、特にⅢ-Ⅴ族化合物半導体を用いた半導体レーザダイオード(LD)。LDは通電することでレーザ発信して単色光を発する小さい素子です。光ファイバー通信用光源には赤外光、DVDには青色光、ポインターには赤色光が使われます。科学の研究者にならなかったら、音楽家とか医者とか夢はたくさんありました。子供のころは花火が大好きで花火師になりたいと思っていました。