音声情報処理、人工知能・機械学習

会話相手の興味や意欲を自動推定!空気が読める会話ロボットエリカ誕生!!

井上昂治先生 京都大学 工学部 情報学科/情報学研究科 知能情報学専攻

 

スマートスピーカーや会話ロボットの実用化が進み、同時翻訳してくれたり、人間らしい声で会話するロボットは、急速になじみ深いものになってきました。しかしはじめて会った人間の興味や意欲をその場で見抜き、応答するタイプのロボットはまだまだ発展途上です。井上昂治先生は、その場の空気を読み会話するアンドロイド、エリカを生み出しました。


ロボットは空気を読めない

最近、人間とロボットが会話をするシーンが珍しくなくなってきました。しかし会話相手の意図や気持ちをロボットが正しく理解できないために、会話がうまく続かなくなるということがよくあります。

 

何が根本的に欠けているのかというと、ロボットがその場の空気を読めないことに大きな原因があります。人間ははじめて会った人同士でも、ふんふんといった相槌や笑い、視線の動きから、相手が興味を持っているのか、何となくわかります。ロボットは、現状ではこれを理解することが非常に難しいのです。私はそうした観点から、見た目も人間そっくりで、はじめて会った人との場の空気を読む会話ロボット、エリカを開発しました。

 

 

相槌や笑い、視線の動きから、相手の興味を推定するAIロボット

私はまず、会話をしている画像や音声情報のデータから、会話者の視線や上下に動くうなずきなどの要素を高精度に検出するシステムを作り出しました。これにはディープラーニングという、人間の高度な脳神経ネットワークを模した、今話題の人工知能技術を用いています。それで人のふるまいを自動的に推定することができるようになりました。 

 

 

しかし対話の現場では、相手のふるまいを推定するだけでなく、人それぞれ、それに基づいて言葉を発し、応答します。その応答の仕方は、応答者の主観的な判断によってまちまちです。つまり実際の現場で使える空気を読むロボット設計には、そのロボットらしい主観的な判断で、瞬時に応答できることが必須になってきます。そこでこれも人間が判断したたくさんの会話データの中から、エリカの性格に近いと思われる判断を抜き出しました。

 

その結果、相手のふるまいを自動推定する精度を保ちつつ、会話現場で、リアルタイム推定し、応答するロボットエリカができあがりました。

 

空気を読める精度を上げ、人間に寄り添うよきパートナーに

実際にエリカが、研究室紹介を2人の男性を相手に紹介する実験を行ってみました。その結果、研究室に興味を持っているかいないか、相手の興味の高さをそのふるまいから自動推定し、それによってエリカ自身が説明する内容を、臨機応変に切り替えるという鮮やかな応答ができるようになっていました。

 

 

空気を読む、あるいは人間の感情を理解するということは、これまでロボットが最も苦手としたことでした。人工知能研究の飛躍的な発展は、そこに可能性を拓き、相手の興味を数値として自動的に検出することができるようになっています。この数値として表された相手の興味を推定する指標のことを、会話エンゲージメントといいます。

 

エリカのさらに新しい点は、会話エンゲージメントのシステムを搭載するだけでなく、実際の会話現場で、リアルタイムの自動推定をして、応答できるようになったことです。

 

今後は、こうした人間相手の実験で得た会話内容のデータをエリカにフィードバックして、エリカの空気を読む会話エンゲージメントの精度をもっと上げていきたいです。人と会話をすればするほどエリカは自ら勝手に学習をし、賢くなっていくと期待されます。人間とロボットの会話の積み重ねを通じて、より深い関係を築いていく。それによって人間に寄り添うよりよいパートナーになっていくことでしょう。

 

井上先生ミニインタビュー

◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。

 

私の研究テーマは「相手が会話に興味を持っているかを自動で推定すること」です。もともと人間どうしの会話に興味を持っていましたが、苦手意識もありました。「あのときこう言えばよかった…。こう言うべきじゃなかった…。あの人は興味を持っていなかったかもしれない…。」と思うことが多々ありました。しかし、あるとき「なぜ自分はそんなに深く考えるのだろう?なぜ相手の反応にそんなに気を使うのだろう?」と思いました。それが不思議で、その仕組みを解明したいと強く思うようになりました。結局のところ「人間」を知りたかったのです。その手段として、大学で学んでいた「情報」を選びました。これがこの研究テーマにつながったのです。

 

◆高校時代は、どんなことに熱中していましたか。

 

熱中していたものは、プログラミングです。高校(高専)に入学して、たまたま「プログラミングコンテスト同好会」のチラシをもらい、「これだ!」と思い、その場で入会しました。今思えば、このチラシを受け取っていなければ、私の人生は別の方向に進んでいたはずです。そのあと、プログラミングのコンテストに出場するようになり、気づけばプログラミングにのめり込んでいました。このとき、情報系の先生や先輩と接する機会が増え、結果として研究者の道に進みました。そのつながりは今でも続いています。他に頑張っていたことは、アルバイトです。お店での接客業です。世の中のいろんな世代の人と話すことでよい社会勉強になりました。「人間」に興味を持ったのは、この経験がもとなっているかもしれません。

 

研究室のHPはこちら

 

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興味がわいたら

『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』

川添愛(朝日出版社)

人工知能というと「人間を超えたもの」や「仕事を奪うもの」というイメージがあるかもしれません。しかし、実際のところ、人工知能について、正しく理解して、それを他の人に説明できる人は少ないのではないでしょうか。この本は、人工知能の基本的な仕組みだけでなく、その限界について、わかりやすく、また面白いストーリー(動物どうしの会話)で説明されています。人工知能の仕組みがわかって、さらに、なんでもできるわけではないということがわかると思います。正しく理解した上で、さらに学ぶ、そういう姿勢が重要だと思います。

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『一流の逆境力 ACミラン・トレーナーが教える「考える」習慣』

遠藤友則(SB新書)

ヨーロッパの一流サッカークラブで、トップレベルの選手がどのように日々の練習に取り組んでいるのかが紹介されています。結局のところ、毎日の小さな努力の積み重ねが大事だということです。サッカー選手も研究者も同じ「プロ」として、努力することが重要ということに気づかされました。どのように努力したらいいかわかないと、勉強につまずいている人におすすめです。

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『志高く 孫正義正伝』

井上篤夫(実業之日本社文庫)

ソフトバンク創業者の半生について書かれています。中学生のときにこの本を読んで情報系の道に進もうと決心しました。上手くいってもいかなくても目標を高く持ち続けること、行動することが重要であることに気づかされます。特に、アメリカ留学や創業当時の話は、その行動力に驚かされます。しかし、その原動力は、本人の高い志(夢)です。ですので、高校生の皆さんもまずは自分の夢についてじっくりと考えることが大事だと思います。次に、その夢が、本当に自分が叶えたいものなのか自問しましょう。もしそうであれば、すでに行動に移しているはずです。

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『ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング』

エディー・ジョーンズ(講談社)

ラグビー日本代表の元監督が、ワールドカップで格上相手に挑むために工夫したことや選手に問いかけ続けたことなどが紹介されています。勝利の要因は、日々の努力と高いメンタルを持ち続けることにあるそうです。高校生でも、日々の勉強に取り組む姿勢において、参考になると思います。

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『こころ』

夏目漱石(集英社文庫)

高校の教科書でも扱われていると思います。複雑な心情が見事に描写されていて、私が読書好きになるきっかけを与えてくれた本です。昔の本なのに共感できることも多く、時代が変わっても人間の「こころ」はあまり変わらないものかもしれないと、考えさせられました。

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