政治学

Part2  政治過程論 〜選挙や政治の実態をエビデンス(データなど)で明るみに出す

谷口尚子 先生

慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科

第6回:「勝ち組意識」が高いと、所得格差のある社会を望む

私はまた、人々がどのような所得分布の社会が望ましいと考えているかについて研究をしています。所得の平均がどのくらいなのか、最貧困層がいるかどうか、格差が大きいかどうかという三つの点を、どのように考慮しているかを実験などで検証しています。

 

 

上記のグラフは4人家族の所得の分布モデル。A〜Iのグラフ所得分布は、最貧困層がいるかどうか、格差が大きいかどうか、所得の平均がどこにあるかという三つの属性の組合せで、9種類作った。横軸は所得で、縦軸が人数比率。例えば、Aのグラフは、横に広がっているので格差があり、平均所得はそれほど高くなく、最貧困層は他のグラフより多い。

 

 

ある大学(A大学とします)の学生に考えを聞いたところ、一番重視したのは所得格差で、格差がある社会を望みました。つまり、頑張っても頑張らなくても所得は変わらない社会より、頑張ったら所得が多くなる社会のほうがよいという考えです。自分は能力があって頑張ることもできるから、上のほうの階層に違いないと考えたのかもしれません。

 

2番目に重視したのが平均所得で、所得が平均的に高い社会を望みました。最も重視しなかったのが最低所得で、最貧困層がいるかどうかはあまり気にしませんでした。

 

次に、半分ずつ2つのグループに分け、一方には、今、どういう所得分布の社会が望ましいと思うかを訊ね、もう一方には、生まれ変わるとしたらどういう所得分布の社会がいいかを訊ねました。

 

A大学の学生は、現在は「自分は勝ち組だ」と思っているせいか、格差があることを望みました。しかし、生まれ変わるとしたら、自分がどういう能力を持って、どういう親の下に生まれるのかわかりませんから、最低所得をもっとも重視しました。最低所得の水準が高い社会の方が、自分が最低所得層になった時に生きやすいからです。次に重視したのが格差の大きさで、最後が平均所得でした。

 

他方、インターネットで多様な人を対象に調査したところ、全く異なる結果が出ました。この調査では、「負け組意識」のようなものも現れ、むしろ生まれ変わったほうが、「現在の状況よりましになるのではないか」と考えるのか、格差を望む人も多かったです。この実験と調査から、社会における立場によって、社会に対する見方や意見が変わることがわかります。

 

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