スーパーマリオブラザースやポケモンGOなどのゲームは、なぜ人を夢中にさせるのか

~日本のモノづくりの推進力になる「ゲームニクス」はキミの発想力も変える

サイトウ・アキヒロ先生

亜細亜大学 都市創造学部 教授/藤田保健衛生大学 客員教授 

第6回 なぜ日本のゲームが、任天堂が、世界のトップになったのか

ゲームニクスというのは、ユーザーのメンタルな立場に立って、ゲームをいかに前向きに遊んでもらえるかという緻密なノウハウですが、アメリカのゲームにはそれがありませんでした。結果として日本のゲームは世界産業にまで市場を拡大することが出来たのです。では、なぜ日本でゲームニクスが生まれ、発展していったのでしょうか。それは日本の文化と深い関係があります。

 

一つは、茶の湯に代表されるような「おもてなしの文化」です。常に他人の立場に立って考える、つまりユーザーの気持ちを常に優先して考えるということ。そして、もう一つは、俳句に代表されるような制限の中にどれだけイメージを込めるかということです。

 

ゲームニクスは「おもてなしの文化」です。ユーザーがきっとこういう操作をするだろうと、押すべきボタンを先回りをしてわかりやすくレイアウトするとか、押しつけがましくなくその使用方法を伝えるというように、ユーザーのメンタルな部分を先回りして、さりげなくそっと差し出すというノウハウです。

 

こういう「さりげないおもてなし」というのは、日本人なら誰もが持っている「和」の心です。これは「関守石」というものです。茶の湯で、木戸の入り口から茶室に行くまでのルートが敷石になっているのですが、途中で道が分かれている場合もある。そうすると、この分岐点でお客さんが迷います。この時、通行止めの標識とするのが「関守石」です。縄がかけてある石が明らかに意図的に置いてあると、「あっ、こっちじゃなくてあっちなんだな」とわかるのです。しかも、さりげなくです。気付いた方も、「自分って、結構粋(いき)なのかも」みたいな優越感すら持てますよね。

 

もう一つは「制限による工夫」です。ファミコンのスーパーマリオは、歩く、走る、ジャンプする、叩く、しゃがむ、上る、つかむ、離す、投げる、倒す、蹴る、滑るなど、ざっと40~50のアクションをします。それを十字キーとABボタンの組み合わせだけで、マニュアルも読まずに何の迷いもなく遊べます。このアクションのそれぞれにボタンを付けてしまうと、テレビのリモコンのようにボタンだらけになってしまうのです。

 

「制限における工夫」とは、日本の伝統と言えます。俳句は、世界で一番短いポエムです。五・七・五という削ぎ落とされた字数の中に、どうイメージを盛り込むかということは日本人の得意とするところです。

 

茶室もあえて質素な造りにしています。能も、本来は多彩な人間の動きを様式化、いくつかのパターンによって感情を表現します。

 

日本人は、どれだけ削ぎ落しても、もともと持っていたイメージを決して落とさない、というノウハウを感覚的に持っているのです。これは皆さんももともと持っているものなのですよ。

 

京都の会社だからこその成功

では、なぜ任天堂はゲームで成功したのでしょうか。その理由は、任天堂が京都の会社だからです。

 

私のような東京のクリエイターは、江戸=武士の文化を背景に持っています。誰が見ても立派でわかりやすく、キラキラしたものがありがたい。東照宮や武士の兜などに代表されるように、いかに派手にするかというわかりやすいアピールが武士のクリエーションの基本なのですね。

 

これをゲーム機に置き換えると、「最先端高性能」「世界初特許」とか、ソフトでいうと「リアルで壮大な世界感」といった派手な言葉でバリューアップしようとするのですね。いわばカタログスペックで勝負しようとするのです。

日本のモノづくりが第二次世界大戦後に発展したのは、すべてこのカタログスペックで勝負したからでした。世界でモノを売ろうとすれば、「うちのテレビの方が安いです、小さいです、軽いです、きれいです、他の国のテレビよりもここが優れています」というのがわかりやすいからです。ハードウェアに関しては、ある時期まではそれで通用しました。しかし、ハードウェアの機能は、これ以上差別化のしようがないところまで発達してしまって、結果的に今まで成長し続けてきたいろいろ産業が落ち込んでしまっているのです。

 

 

一方、京都・平安以来の公家の文化とはどのようなものか。例えば、桂離宮は、公家の別荘ですから、すごくお金をかけているはずですが、見た目はとても地味です。棚に使われている木材は、黒檀(こくたん)や紫檀(したん)といった、今のお金にすれば数千万円する貴重なものですが、言われないと気が付かない。そんなところにお金をかけているのです。つまり、公家の文化はさりげなくて気が付かない、わかる人がわかればいいという文化なのです。これ見よがしな価値観の押しつけがないのです。

 

ですから、任天堂の製品はあくまでもさりげない。例えばWiiは、ハードウェアスペック的には、その前に出たゲームキューブの中身とほぼ同じで、それに3軸モーションセンサーを載せたものです。3軸モーションセンサー自体も20年前の技術で、最先端でも何でもありません。それでも発売当時はすごく画期的で、世界で1億台売ました。

 

DSのペンタッチ入力が出た時も、ペン入力自体は20年以上前の技術でしたが、最新ではない技術だと、部品が安く済みます。そこに誰もが考えなかったソフトウェアを組み合わせることで、新しい「驚き」を創造しているのです。

 

実際、任天堂のゲーム機は、他のメーカーと比べて1万円近く安いのです。それは、おもちゃの値段が2万円を超えたらダメだという鉄則があるからです。低技術で、どうやってハイスペックな機種に対抗していくか考えていくのです。

 

サイトウ・アキヒロ先生プロフィール

亜細亜大学都市創造学部教授/藤田保健衛生大学客員教授

 

日本を代表するゲームクリエイター、インタラクティブメディアディレクター。前の任天堂社長の故 岩田聡氏とともに、ファミコンの黎明期から30年以上にもわたって、数多くのゲームディレクションに携る。現在は、ゲーム開発におけるインターフェースのノウハウである「ゲームニクス理論」を提唱、家電やロボット、リハビリ機器や教育分野で、ゲームニクスの応用を実践している。

  

著書に、『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP)、『ニンテンドーDSが売れる理由―ゲームニクスでインターフェースが変わる』(秀和システム)、『ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則』(幻冬舎新書)など。

 

こちらは『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP社)

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サイトウ先生おススメの本

危機にこそぼくらは甦る 新書版 ぼくらの真実

青山繁晴(扶桑社)

学力は世界トップレベルなのに、自信は世界最低レベルの日本の子どもたち。日本の学校は、祖国を愛する心や、日本人としての哲学や精神を教えてくれません。真に世界に羽ばたく強い心を育むために読んでほしい本です。

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『失敗から学ぶユーザインタフェース 世界はBADUI(バッド・ユーアイ)であふれている』

中村聡史(技術評論社)

購入方法がわかりにくくて行列ができる自動券売機、服を着たままシャワーを浴びてしまう切り替えハンドル、何を入力したらわからず途方にくれてしまうウェブサービスなど、日常のBADなユーザインタフェースを取り上げて、その問題点を指摘する書籍です。具体的な解決策は記載されていませんが、ゲームニクスを用いればすべて解決できますので、私の本と合わせて読めばかなりの頭の訓練になります。

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『別冊太陽217 明治の細密工芸』

山下裕二(平凡社)

並河靖之や濤川惣助の七宝工芸、正阿弥勝義の金工、超絶技巧の刺繍、芸術品を超えた細工陶器、現代玩具よりも精緻な自在置物。明治の無名な技術者の究極の工芸品は、世界のどの工芸も追いつけない果に達しています。現代人が忘れてしまった半端ない日本人の手わざの凄さと、何事も突き詰めていく求道精神を感じてください。

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