スーパーマリオブラザースやポケモンGOなどのゲームは、なぜ人を夢中にさせるのか

~日本のモノづくりの推進力になる「ゲームニクス」はキミの発想力も変える

サイトウ・アキヒロ先生

亜細亜大学 都市創造学部 教授/藤田保健衛生大学 客員教授 

第10回 生徒との質疑応答 その2 任天堂はVRのゲームに参入しないんですか

ヨシダくん:僕は最近は『スプラトゥーン』にはまっていています。その『スプラトゥーン』を思い返してみると、最初にむりやりでもチュートリアルをやらせるので、マニュアルは捨ててしまってもやり方は確かにちゃんとわかっているし、段階的に優しく、ユーザーがだんだんと操作がわかってくるように設計されていますよね。今日ゲームニクスの話を聞いて、ああ、なるほどと思いました。

 

オザワくん:僕も、今日のお話でゲームに対する見方がだいぶ変わりました。マリオも結構いろいろやっているのですが、全てがきめ細かく計算されていて、点が線につながっていて、オオーッ! みたいな気持ちになりました。

 

ナカジマくん:僕は、ゲーム歴が長くて、ファミコンもDSもスマホも一通りやっています。Switchもやっています。Switchも結構いいハードだと思うのですが、ソフトの数が問題だと思います。Wiiが衰退したのも、ソフトが使えないという理由だったと思うので。

 

サイトウ先生:そうですね。ハードが発売されると同時に出るソフト、ローンチソフトというのですが、これがいいものがどれくらい出るかがカギですね。

 

ただ、設計思想で言えば、このSwitchは家でゲームをしている感覚のまま、外に持ち出してもプレイできる、ぎりぎりの大きさであるということ。そして、タブレットで続きができて、なおかつ、みんなでワイワイできる。モーションセンサーの機能もWiiで使っていたものを持っていく。これらを設計に落とし込んでいってできたのがSwitchです。

 

『スプラトゥーン2』は、任天堂が作ったものですが、発売はアメリカが先なんです。任天堂は、すでに日本の市場をメインとすることを諦めて、主戦場をアメリカに移しています。だから、Switchのプロモーションを見ても、出てくるのは全部外国人ですよね。

 

作っているのもアメリカ人がメインです。実は、スーパーファミコンの後半くらいから任天堂のゲームの販売売上の8割は北米とヨーロッパなのです。以前は日本向けに作っていたものを世界で売っていたのですが、それも限界なのです。

 

それはなぜでしょうか。ハードが進歩してグラフィックがきれいになったからです。グラフィックがきれいになると、着ている洋服や表情が細かく表現できますが、どうしてもそこには文化が出てしまいます。日本人が作るとどうしても日本臭さが抜けなくて、世界に通用するキャラクターや動きや、世界観にならないのですよ。ですから、そういう表現はアメリカでせざるを得ない、ということになったのです。

 

じゃあ、アメリカ人に日本の「おもてなしの心」がわかるのか。ところが、8年くらい前から、海外でもゲームニクスがよくできているゲームが出てきたのです。

 

子どものころからファミコンで遊んでいた世界の人たちがクリエイターになってきたのです。彼らは日本のおもてなしのゲームを楽しんできたので、体にゲームニクスがしみ込んでいるのです。その人たちが、自分たちが面白かった体験を、ゲームに投入するようになり、任天堂の独り勝ちではなくなってきているのです。だから、Switchもクリエイティブはアメリカ中心になりました。彼らはゲームに関しては日本人のこころになっているんです

 

ナカジマくん:経路依存性について質問したいと思います。経路依存性というのは、例えばファミコンだったら、A・Bのボタンと十字キーという基本的なものが決まっていて、それを一気に崩してタッチペンにしたら、ユーザーが受け入れられないから売れなくなっちゃうよねということなのですが、それでもWiiは両手持ちだったり片手持ちだったり、Switchではコントローラーが離れてしまったりと、かなり経路依存性から離れているように思います。でも、結果としてはどちらも売れていますよね。それはなぜでしょうか。

 

サイトウ先生:おっしゃる通りで、任天堂は経路依存性をいかに切り崩して、新しい「驚き」をユーザーに届けることができるのか、をとても考えています。十字キーとABボタンというのはものすごく優秀なユーザーインターフェースだったのですが、20年もやっているとさすがにゲームのアイデアが出尽くして、遊ぶ「驚き」がなくなっちゃったんですね。

 

Wiiを作る時にとても苦労したのは、立ってゲームをすると手元はふらふらしますよね。そうすると、画面のAとBのボタンを押し間違えてしまう。ですから、持っている人の動きのクセを学習して、本来この人が選んでいるボタンはこれなのだと、補正できるようなプログラムを作りましたが、これがたいへんだったと聞いています。

 

経路依存性を破った新しいゲーム機を使う時、プレイヤーは一度でも思い通りに動かなければ、「やっぱダメじゃん」といった不信感が増大します。ですから、経路依存性から脱するような製品を開発する時には、不信感が生まれないように徹底的に事故を防ぐ。人が思った通りのことが実現するためにどうするか、という目に見えないところにものすごく手をかけて、完璧に仕上げていくように心掛けています。

 

オザワく:僕はVR(virtual reality)はゲームの歴史を塗り替えるくらいにすごいと思っているのですが、任天堂はあまり注目していないようで…。どうしてなのですか。

 

サイトウ先生:任天堂もVRをやっていないわけではなくて、実は1995年に『バーチャルボーイ』いうのを出して、大失敗しているのです。ゴーグルをかけて家の中で自分だけの世界に浸っているのって不気味だというのが失敗の理由です。そういうこともあって、VRがもう少しカジュアルな、特殊感がないものにならないと、難しいですね。

 

もう一つ大事なのは、価格が安くなるということ。任天堂はおもちゃ屋さんなので、価格が安いということをすごく重視していて、価格が安くすることが大前提です。そして、ゴーグルをかけるのは、任天堂の「家族みんなが楽しく」というイメージに合わないのです。ただVR自体、あの没入感はすごいので、何らかの形で面白いものができたらなと思います。

 

おわり

 

サイトウ・アキヒロ先生プロフィール

亜細亜大学都市創造学部教授/藤田保健衛生大学客員教授

 

日本を代表するゲームクリエイター、インタラクティブメディアディレクター。前の任天堂社長の故 岩田聡氏とともに、ファミコンの黎明期から30年以上にもわたって、数多くのゲームディレクションに携る。現在は、ゲーム開発におけるインターフェースのノウハウである「ゲームニクス理論」を提唱、家電やロボット、リハビリ機器や教育分野で、ゲームニクスの応用を実践している。

  

 

著書に、『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP)、『ニンテンドーDSが売れる理由―ゲームニクスでインターフェースが変わる』(秀和システム)、『ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則』(幻冬舎新書)など。

 

こちらは『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP社)

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サイトウ先生おススメの本

危機にこそぼくらは甦る 新書版 ぼくらの真実

青山繁晴(扶桑社)

学力は世界トップレベルなのに、自信は世界最低レベルの日本の子どもたち。日本の学校は、祖国を愛する心や、日本人としての哲学や精神を教えてくれません。真に世界に羽ばたく強い心を育むために読んでほしい本です。

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『失敗から学ぶユーザインタフェース 世界はBADUI(バッド・ユーアイ)であふれている』

中村聡史(技術評論社)

購入方法がわかりにくくて行列ができる自動券売機、服を着たままシャワーを浴びてしまう切り替えハンドル、何を入力したらわからず途方にくれてしまうウェブサービスなど、日常のBADなユーザインタフェースを取り上げて、その問題点を指摘する書籍です。具体的な解決策は記載されていませんが、ゲームニクスを用いればすべて解決できますので、私の本と合わせて読めばかなりの頭の訓練になります。

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『別冊太陽217 明治の細密工芸』

山下裕二(平凡社)

並河靖之や濤川惣助の七宝工芸、正阿弥勝義の金工、超絶技巧の刺繍、芸術品を超えた細工陶器、現代玩具よりも精緻な自在置物。明治の無名な技術者の究極の工芸品は、世界のどの工芸も追いつけない果に達しています。現代人が忘れてしまった半端ない日本人の手わざの凄さと、何事も突き詰めていく求道精神を感じてください。

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