ニューリーダーからの1冊

ナノテクノロジーが専門の谷口正輝先生(大阪大学)がおススメ。
「遺伝子をめぐるミステリー。この本で想定されている技術は、今、研究している技術によって実現されると期待されています。」
『プラチナデータ』東野圭吾(幻冬舎文庫)
国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システム。その開発者が殺害された。神楽龍平はシステムを使って犯人を突き止めようとするが、コンピュータが示したのは何と彼の名前だった。革命的システムの裏に隠された陰謀とは? 映画版は、二宮和也、豊川悦司主演。
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研究は世界初でオリジナルでこそ。不可能と言われた1分子の研究で成果
谷口正輝先生 大阪大学
<専門分野:ナノテクノロジー・1分子科学>
「ナノテクノロジー・1分子科学」というまったく新しい研究領域で、DNAを作る4つの分子を1分子で識別する技術を世界ではじめて作ることに成功! この新しい技術は、ガンの早期発見、個人にあった薬の開発、インフルエンザ等のウイルスの早期発見などを可能にすると大いに期待されている。
先生
谷口正輝(たにぐちまさてる)
専門分野:ナノテクノロジー・1分子科学
大阪大学産業科学研究所 教授
1972年岡山県生まれ 岡山県立岡山芳泉高校出身
研究
私の研究は、ナノテクノロジーを使って1個の分子の性質や動きを調べるという分野です。特にDNAを作る4つの分子を1分子で識別する技術を世界ではじめて作りました。たとえ話で説明すると、空港の手荷物検査場を思い浮かべてください。金属探知機のゲートを通る一人の人が1分子というイメージです。さて課題は、いかにして1分子が通るゲートを作るか、そして金属探知機に相当するどのような1分子の検出原理を作り出すか、です。
この新しい技術は、早期のがん診断、早くて正確なウイルス検査、個人に合った創薬など、幅広い応用が期待されています。病気を治すのではなく、病気になるのを未然に防ぐ技術を生み出したいと思っています。
常に世界の研究論文と学会発表をチェックし、考えている解決方法や仮説が、自分だけのオリジナルであることを確認しています。そして、見込みのある研究は一気に行い、世界で最初の研究成果になるようにしています。次の研究テーマはいっぱい見つかりますが、その研究を行うかどうかは、自分のオリジナルであること、世界で初めてであること。研究の舞台は世界です。

この道に入ったきっかけ
大学と大学院では、自分で設計して作った分子の結晶の電気的な性質を研究していました。ところが、どんなに愛情を注いで設計して作っても、思い通りの性質が得られることはまれでした。それは、結晶が無数の分子の集まりだからです。そのため、1個の分子の特徴は、なかなか結晶の性質には現れません。そこで、大学院を修了した後、1分子の性質を研究することにしましたが、当時、1分子の性質を研究することは不可能と考えられていたので、周りから大反対されました。唯一、「できるんじゃないか」と言っていただいた川合知二教授の研究室で1分子の研究を開始しました。
高校時代
高3の夏、初めて大阪の河合塾の夏期講習に参加したのですが、関西の高校生の受験への真剣さを見て、浪人を覚悟したのを鮮明に覚えています。もちろん浪人しました。
高校の時は、物理、化学、数学だけを勉強できるのなら何て幸せなんだろうと思っていました。ノーベル化学賞を受賞された福井謙一先生の「化学なのに、数学と物理を勉強できた」という自由な京大という話が好きでした。その後、大学では福井研を継ぐ研究室で研究することになり、福井先生と話す機会に恵まれました。
趣味・休日は?
最近、コンピュータグラフィックで研究内容を説明する絵やアニメーションを作るのが趣味です。休日は、子供と遊んだり、ランニングをしたり、ミステリーを読んでいます。
おすすめの本、TV


先生の専門分野に触れる本
『プラチナデータ』東野圭吾(幻冬舎)、『イエスの遺伝子』マイクル・コーディ(徳間文庫)
どちらも遺伝子をめぐるミステリー。この本で想定されている技術は、今、研究している技術によって実現されると期待されています。 [出版社のサイトへ]