ニューリーダーからの1冊

ナノ領域科学、惑星・天文学が専門の木村勇気先生(北海道大学)がおススメ
「研究者の現状や悩み、可能な進路の一端が読み取れます。」
『下町ロケット』池井戸 潤(小学館文庫)
研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた――。男たちの矜恃が激突する感動のエンターテインメント長編!第145回直木賞受賞作。(小学館HPより)
[出版社のサイトへ]
隕石の結晶を究めれば惑星の形成過程がわかる! ナノ研究から宇宙の謎に迫る
木村勇気先生 北海道大学
<専門分野:ナノ領域科学、惑星・天文学>
ナノメートルサイズの超微小な結晶の生成メカニズムを研究する「ナノ領域科学」の知見をもとに、「惑星・天文学」へアプローチ。宇宙で惑星がどのようにできたのか、物質がどのようにできてきたのかを明らかにすべく、ナノスケールの実験を重ねる。NASAにあこがれ、研究者の道に入った。
先生
木村勇気(きむらゆうき)
専門分野:ナノ領域科学、惑星・天文学
北海道大学 低温科学研究所 准教授
1976年愛知県生まれ 愛知県立一宮北高等学校出身

研究
ナノメートルサイズの超微小な結晶の生成メカニズムを研究する「ナノ領域科学」と、「惑星・天文学」の2つの分野を横断した研究を行っています。
惑星などの太陽系小天体は宇宙ダストが集まることで作られます。宇宙ダストは、希薄な宇宙で分子が生成するための原子の待ち合せ場所であり、有機物の生成を助ける触媒の役割も担っています。宇宙ダストの生成過程を知ることは、惑星が形成される謎を解決する突破口になります。
ところが、宇宙ダストはナノメートルサイズの微小な結晶(ナノ結晶)であり、ナノ結晶は、大きな結晶とは物性が異なっているのに、惑星・天文学の分野では考慮されていませんでした。そこで、ナノ領域科学の視点から取り組めば、百年以上も研究され、いまだ未知である隕石中の結晶の生成過程を明らかにできると考え、二つの分野にまたがって研究しているのです。
結晶ができる瞬間(核生成)の現象を理解できると、生成物の種類やサイズ、形や個数などを制御できるようになります。薬やチョコレート、アイスクリームなども結晶です。核生成の理解は、あらゆる分野に役立てられると思います。

この道に入ったきっかけ
惑星・天文分野ではナノ領域特有の現象が考慮されておらず、自分の基礎分野との境界領域に新しい分野を形成し、未解決問題を明らかにできると考えました。また、宇宙には思いもよらない結晶が多数存在しているのに、それを材料科学の視点で捉えている研究はなかったので、物質科学分野への発展も見込めたため、この道を選びました。
中高時代
マラドーナと三浦和良にあこがれ、サッカー選手になりワールドカップに出場したいと思っていました。また、NASAで研究したいと考えていました。
大学時代
1年生では、大学に入ってもまだ義務教育のような授業を受けるのかとうんざりしましたが、実験が始まると中学理科の楽しさがよみがえり、これが科学、これがやりたかったのだと夢中になりました。研究が楽しくて仕方ありませんでしたが、本当に研究者になれるのか心配していたとき、教授の先生から大丈夫だとの一言を頂いたのが印象に残っています。おかげで、迷うことなく研究者になれました。
趣味・休日は?
教員の仲間や学生と一緒に定期的にフットサルをしています。研究には体力も必要ですが、学生とは差がつくばかりです。

最近読んだ本

『河北新報のいちばん長い日』
河北新報社(文芸春秋)
前任校の東北大学で震災、その翌朝に届いていた新聞を目にしたときの感動にも似た驚きが、この本を手にするきっかけになりました。構成と文章の明快さがすばらしく、手本にしたいです。
[出版社のサイトへ]