ニューリーダーからの1冊

深津武馬先生(東京大)がおススメ

『茂木健一郎の科学の興奮』(日経サイエンス)

脳科学者・茂木健一郎が、最先端科学が生み出される現場を訪れ、12人の科学者たちと語り合った、日本の科学の「今」を伝える対談集。第9章は、深津武馬先生との対談「細菌によって変わる虫たち」。

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生物の体の中に他の生物が棲む!その小さな生態系の豊かな世界に迫る

深津武馬先生 産業技術総合研究所/東京大学/筑波大学

<専門分野:進化生物学、微生物学、昆虫学>

1匹の生物の中には、無数の微生物が棲んでいる。それはまるで一つの生態系だ。その生態系はどうやってバランスを保っているのか? その微生物たちが、宿主の体の色や性別を変えたり、新たな機能まで生み出すという。なぜ? どうやって? 小さな生態系の中には未解明の不思議がいっぱい詰まっている!

 

 先生

フィールドワークでの昆虫採集は研究の重要な一環。2014年5月沖縄本島名護岳山頂にて。
フィールドワークでの昆虫採集は研究の重要な一環。2014年5月沖縄本島名護岳山頂にて。

深津武馬(ふかつたけま) 

専門分野:進化生物学、微生物学、昆虫学

東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 教授

(上記以外の所属:産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 首席研究員;筑波大学大学院 生命環境科学系 教授)
1966年東京生まれ 桐朋高校出身


 研究

非常に多くの生物が、恒常的もしくは半恒常的に他の生物(ほとんどの場合は微生物)を体の中にすまわせています。このような現象を「内部共生」といい、これ以上にない空間的な近接性で成り立つ共生関係のため、とても高度な相互作用や依存関係がみられます。このような関係からは、しばしば新規な生物機能が生み出されます。共生微生物と宿主生物がほとんど一体化して、あたかも1つの生物のようになってしまう場合も少なくありません。

私たちは昆虫類における様々な内部共生現象を主要なターゲットとし、さらに関連した寄生、生殖操作、形態操作、社会性などの高度な生物間相互作用をともなう興味深い生物現象について、進化多様性から生態的相互作用、生理機能から分子機構にまで至る研究にいろいろなアプローチから取り組んでいます。

誰もがやらない研究、その予想外の成果にあっと驚くような研究に挑み、明らかにした真実の知見が短期的ではないにせよ、最終的に何かの役に立ってくれれば望外の喜びである、そう思って日々研究を続けています。

私は大きな研究成果が出ると必ず、その情報や知見を社会に発信し、一般の皆さんと共有することを心がけています。下記はそういった具体例ですが、研究のやりがいや驚きや興奮を感じ取っていただければうれしいです。

昆虫の体色を変化させる共生細菌を発見―共生細菌が赤色のアブラムシを緑色に変える

共生細菌による昆虫の害虫化の発見―昆虫自身の遺伝子ではなく腸内共生細菌によって決まる食餌

昆虫の植物適応が共生細菌で変わる―微生物の新機能の発見

害虫に殺虫剤抵抗性を持たせる共生細菌を発見―殺虫剤抵抗性は害虫自身の遺伝子で決まるという常識を覆す

共生細菌抑制によりオスとメスの中間的なチョウができる―産業的にも害虫防除・生殖工学の観点から注目される

国際昆虫学会議における基調講演。4年に1度開催され世界各国から数千人が参加する「昆虫学のオリンピック」ともいわれるこの分野最大の学会です。2012年8月韓国・大邱にて。
国際昆虫学会議における基調講演。4年に1度開催され世界各国から数千人が参加する「昆虫学のオリンピック」ともいわれるこの分野最大の学会です。2012年8月韓国・大邱にて。

この道に入ったきっかけ

私は東京の山の手の生まれです。決して自然の豊かな場所ではないのに、物心ついたころから生きものばかり追いかけていました。ちょっとした空き地があるともぐりこんで、めまぐるしく葉上を走り回るテントウムシや、宝石のように輝くゴミムシや、すばらしい声をきかせてくれるコオロギや、湿った石の下にひしめき合うヤスデやコウガイビルやオカチョウジガイをつかまえて眺めることが無上の喜びでした。アゲハやクロアゲハのサナギを部屋に持ち込んで羽化を観察するのが大好きでした。夏の昼下がりにサムライアリの奴隷狩りの集団行に出会ったりすると、本当にうれしかったものです。私が生態学や進化生物学に強い関心を抱くようになったのは、自然の中に生きるものの美しさと多様性に魅せられたからだと思います。


このような科学的関心を抱くようになった経緯については、以下も参照ください。
共生、進化、生物多様性―生きものにわくわくしつづける喜びとともに―(『日本進化学会ニュース』p8参照)

 

中国に国際シンポジウムに招待された際の学生との交流。2010年11月杭州市・浙江大学にて。
中国に国際シンポジウムに招待された際の学生との交流。2010年11月杭州市・浙江大学にて。

大学時代

アルバイトでまとまったお金が貯まると亜熱帯の島へ飛び、レンタカーを借り切ってそのなかで寝泊まりし、蓄えがつきるまで昼も夜も山の中を彷徨って、見たことのない生き物との出会いを追い求めていました。

 


趣味・休日は?

小学生の息子と高校生の娘がいますが、彼らと話し、遊び、一緒に暮らすことが、研究以外の人生の大きな部分を占めています。子どもは本当に面白くて、今はこれが一番の趣味でしょうね。また家族みんな生き物が好きで、いまはチワワ1匹、日本猫2匹、トカゲ1匹、ヘビ1匹と同居中です。あとは霞ヶ浦でヨットに乗っていますが、最近は忙しくてなかなか行けません。

 


おすすめの本

『高等学校 新訂国語総合 現代文編』(第一学習社)

この教科書を使っている高校でしたら、私の論説「共生の本質」を読むことができます。以下で全文を見ることができます。

論説「共生の本質」


『昆虫を操るバクテリア』

石川統(平凡社)※出版元に在庫なし

私の先生(故人)が書いた本(1994年)ですが、共生関係についての一般書としていまだにすぐれていると思います。

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『兵隊を持ったアブラムシ』

青木重幸(丸善出版)

これはさらに古い本(1984年)ですが、研究者の人生や考え、知的興奮がビビッドに伝わってくる素晴らしい書です。2013年に丸善出版より復刻され、いまも書店で入手することができます。

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先生の専門分野に触れる本

『茂木健一郎の科学の興奮』

(日経サイエンス)

脳科学者・茂木健一郎が、最先端科学が生み出される現場を訪れ、12人の科学者たちと語り合った、日本の科学の「今」を伝える対談集。第9章「細菌によって変わる虫たち」は、深津先生との対談。

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