ニューリーダーからの1冊

景観生態学、地理学が専門の原祐二先生(和歌山大)がおススメ

「高校で習う世界史とは違う世界史が学べます。」

 

『緑の世界史』

C・ポンティング  ほか(朝日選書)

イースター島、古代ギリシャ・ローマから現在に至る、人類の自然破壊の歴史。

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人間の営みも生態系の一部と捉え、環境計画を立てる新しい地理学

原祐二先生 和歌山大学

<専門分野:景観生態学、地理学>

グーグルマップにGPS携帯電話。こうした地理情報技術の進展により、原先生の研究する「景観生態学」は現在発展中の学問分野だ。現地調査で得た植生や地質といった自然環境情報を、地理情報技術を駆使した航空写真や人工衛星の画像と照合し、地域の環境計画を策定する、新しく融合的な学問領域なのである。

 

 先生

原祐二(はらゆうじ) 

専門分野:景観生態学、地理学

和歌山大学 システム工学部 環境システム学科 准教授

1977年東京都生まれ 駒場東邦高校出身 

タイでの鳥調査
タイでの鳥調査

 研究

「景観生態学」は、地域を一つの生態系とみなし、人間の営みも生態系の一部として捉え、植生や地質といった自然の要素だけではく、人々の土地利用など社会的な要素も含め、総合的に望ましい地域環境のあり方を検討する新しい分野です。飛躍的に進歩した地理情報技術(コンピュータ)も使って土地利用計画や環境計画を策定していきます。

 

日本だけではなく、アジア各国の都市も研究対象です。アジアの各都市は、稲作文化を共通基盤としている沖積平野の農村地帯に拡大しており、国は違えども多くの共通する環境問題を抱えています。欧米先進国由来の都市計画では対処できない問題も多いのです。特にアジア各都市では、長年営まれてきた高度な稲作農業の影響を受け、土地や水利に対する権利が錯綜しています。こうした場で環境計画を策定する上では、住民の方々との対話が不可欠であり、このため最近では参加型計画の方法論に関する研究も増えています。

 

東日本大震災では、被災後、津波に流されなかった小高い寺社林に、自然土地条件を見極めていた先人たちの地域の知恵が見て取れました。景観生態学的方法論も、リスクマネジメントの視点を入れる必要があると感じています。

タイでの鳥調査の様子
タイでの鳥調査の様子

この道に入ったきっかけ

私の原点は、生まれ育った実家の環境にあります。東京圏のいわゆる里山環境で生まれ育ちましたが、小学生の頃はバブル経済真っ盛りで、土地開発が進み、カブトムシなど生物の減少を体感していました。我が家の隣に戸建て住宅の建設が決まったとき、当時、小学校の先生に、連絡日記帳で「隣の自然破壊はやめて欲しい、カブトムシやクワガタをなくさないで欲しい」と書き送りました。その先生の回答が、「でもあなたの家もそうして建てられたのでしょう?」という一言だったのです。これこそが、自分の研究者人生の原点だったと今でも思っています。



中高時代

あこがれは冒険家の植村直己でした。




大学時代

学部4年生の時、進路に悩んでいるときにちょうどその頃退官された先生に書面で相談したところ、直筆のお手紙をいただき、それを参考に進路を決めた思い出があります。いわく、「研究業界は運不運も正直大きいが、高い志と長期的視野を持って日々すべきことを積み重ねれば、自分が思っている以上のことを実現するチャンスも同じような確率でめぐってくる」とのこと。その先生は翌年若くして亡くなられました。今でも頂戴したお手紙は、自分のデスク前に飾っています。



最近読んだ本

『スティーブ・ジョブズ』

パム・ポラック、メグ・ベルヴィソ 伊藤菜摘子:訳(ポプラ社)

スティーブ・ジョブズの伝記。ちなみに彼が愛読していたという、オイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』、彼が尊敬していたとされるフランク・ロイド・ライトの伝記もずいぶん前に読んでいたので、ジョブズ伝記も納得しながら読めました。

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おすすめの本、雑誌

『緑の世界史』

C・ポンティング  ほか 石弘之:訳(朝日選書)

高校で習う世界史とは違う世界史が学べます。

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先生の専門分野に触れる本

ランドスケープエコロジー

武内和彦 朝倉書店)

臨場感があって理解しやすい、恩師の本です。

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