ニューリーダーからの1冊

気象学が専門の竹村俊彦先生(九州大)がおススメ

「気候変動研究の最前線にいる研究者による、ていねいで適切な解説がなされている。」

『地球温暖化の予測は「正しい」か? 不確かな未来に科学が挑む』 江守正多(化学同人)

温暖化予測の主役ともいえる「気候モデル」はいかにつくられているのか。コンピュータシミュレーションによる地球温暖化の将来予測の専門家がわかりやすく解説。

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異常気象の解明へ ―気象変動を引き起こす原因物質を追求

竹村俊彦先生 九州大学

<専門分野:気象学、大気環境学>

PM2.5や黄砂のような大気中に浮かんでいる目に見えないほどの小さな微粒子が、地球規模でどのように存在し、気候にどのように影響を及ぼすかを、数値モデルを作りシミュレーション。その手法で、福島第一原発事故で放出された放射性物質の大気中での拡散状況を計算し、話題を呼んだ。

 

 先生

竹村俊彦(たけむらとしひこ)

専門分野:気象学、大気環境学

九州大学 応用力学研究所 気候変動科学分野 教授

(九州大学大学院 総合理工学府 大気海洋環境システム学専攻 兼担)

1974年福島県生まれ 東海高校出身

 


 研究

ぜんそく等の疾患を引き起こす大気汚染物質であり、太陽光を散乱・吸収したり雲粒の核となって雲の性質を左右したりして気候変動を引き起こす物質、微粒子(エアロゾル)を研究しています。

 

エアロゾルの気候影響を正しく評価することは、将来の気候変動の予測と直結するため重要な課題です。しかし、そのメカニズムが複雑なため、世界各国で開発されている数値モデルを持ち寄った共同研究で、より詳細な現象の解明に向けて、シミュレーションを行っています。

 

これまでの研究成果が認められ、2013年、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書のLead Author(主導的執筆者)も務めました。IPCCは、最新の気候変動研究を取りまとめる役割を担っている国連の機関であり、公表する報告書は世界的な気候変動対策の科学的根拠資料となります。

IPCC Lead Author Meetingにて
IPCC Lead Author Meetingにて

私が研究開発してきた数値モデルを用いて、福島第一原発事故により放出された放射性物質の大気中での拡散状況の計算を行いました。その結果は専門家のチェックを経て、事故3ヶ月後には論文を発表し、新聞紙上でも公表しました。また、PM2.5の濃度予測(※)を毎日行い、ホームページや報道機関などを通じて、その情報を広く提供しています。研究を通じた社会貢献の重要性を認識しています。

(※)SPRINTARS予測システム

http://sprintars.net/forecastj.html

 


この道に入ったきっかけ

小学校時代に、プラネタリウムを観に行ったり担任の先生の自宅で星の観察をしたりしたことが、天空へ興味を持ったきっかけです。天文の研究を志して大学へ入学しましたが、社会生活により身近な気象にも興味を持ち、研究対象としては気象を選択しました。しかし、天体観察は現在も趣味です。気象・天文いずれにしても上を見上げていることに変わりはありません。



大学時代

研究者になることに迷いはなく、卒業前には一切就職活動をしませんでした。今考えると随分大胆でありました。陸上競技は大学まで続けました。大学では、特に力学に興味を持ちました。高校までは公式を暗記して適用させるだけでしたが、基本的な微分方程式から様々な力学過程がきれいに計算できることに感心しました。



先生の専門分野に触れる本

地球温暖化の予測は「正しい」か? 不確かな未来に科学が挑む

江守正多化学同人)

気候変動研究の最前線にいる研究者による、ていねいで適切な解説がなされています。

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『異常気象と気候変動についてわかっていることいないこと』

筆保弘徳、川瀬宏明、梶川義幸、高谷康太郎、堀正岳、竹村俊彦、竹下秀(ベレ出版)

気象学の最前線で活躍する研究者たちが、地球規模でリンクする異常気象と国境なき気候変動について解説しています。

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