ニューリーダーからの1冊

素粒子・原子核物理学が専門の村田次郎先生(立教大)がおススメ

 

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』

ファインマン、大貫昌子:訳(岩波現代文庫)

量子電磁力学の建設など現在の素粒子物理学に決定的な貢献をした天才物理学者の自叙伝。強いあこがれを抱かせてくれます。

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時間に方向はあるのか。四次元世界もあるのでは? 高感度な実験装置を発明し研究

村田次郎先生 立教大学

<専門分野:素粒子・原子核物理学>

時間が過去から未来への方向を持つのは何故か、という疑問に基づき時間に特別な方向が本当にあるのかどうかを実験。また、空間が本当に三次元なのか、四次元以上の異次元世界があるのではないか、と考え自身で開発した実験装置で探す。こうした途方もない試みから、新しい物理法則を切り開いていくことが村田先生の課題だ。

 

 先生

村田次郎(むらたじろう) 

専門分野:素粒子・原子核物理学

立教大学 理学部 物理学科 准教授 

1970年神奈川県生まれ 神奈川県立湘南高校出身 

 


 研究

現在の物理学は時間には特別な方向はほとんどないと考えています。しかし、現実の現象を見ると特別な方向がなければ説明できないことがあります。そこで、実験的に時間には特別な方向があることを示し、新しい物理法則を切り開いていくことが最大の課題です。それを世界で最も高い精度で検証できる実験装置を自分で発明したことが、この研究を始めた理由です。

 

また、「空間が本当に三次元なのか、四次元以上の異次元世界があるのではないか」と考え、四次元以上の空間を探す実験を行っていますが、それも自分が発明した装置が武器になることに気づいてから、取り組むようになりました。

 

現時点の知識では「ない」と考えられている現象は、単に観測装置の感度が足りないだけで、見つかるかもしれないのです。私が探している、時間の方向や、四次元以上の空間などは、その存在の証拠がとてもわずかでこれまでの実験では見つからなかっただけと考えています。私は、世界の誰よりも高感度の実験装置を自分で発明することで、誰にも真似の出来ない実験を進めています。

 

カナダの研究所での実験メンバー(大学院生)のみなさんと。左端が村田先生
カナダの研究所での実験メンバー(大学院生)のみなさんと。左端が村田先生

この道に入ったきっかけ

もともとは理論物理学に強いあこがれを抱いて大学に入学しましたが、それ以前にモノづくりや発明家にあこがれていた時期もあり、将来はおそらく物理を学んだうえでメーカーに就職するものと考えていました。それが、学部の学生実験で、自分で実験装置を手作りし、それで物理学の結果を出せることに強い驚きを覚えてからは、得意で大好きなモノづくりをいかして物理学に貢献できるのではと考えるようになり、実験物理学の道に進みました。一年浪人してがんばって大学に入学したものの、周りの学生が優秀で驚き、まともに勝負していてはとても生き残れないと思っていましたので、実験物理学に出会えたのはラッキーでした。

 


中高時代

中学時代はエネルギー問題を抜本的に解決できる発明をしたいと考えていました。高校一年生の時にアインシュタインの特殊相対性理論の入門書を読んで物理学に惹かれ、高校の図書館にあった大学の物理学の教科書などをがんばって読んでいました。ただ、高校で習う物理は無味乾燥で機械的で、テストの勉強もほとんどしなかったため、成績はそれほどでもなかったです。だから、物理学を職業とするのは無理と思っていました。

 


大学時代

体育会の山岳部に入部して非常にいそがしく活動していましたが、あこがれて入学した大学だったので物理の勉強だけはしっかり続けていました。

 

山岳部で大きな遭難事故が起きたり、身近な人の死などが重なったりしたこともあり、時間の流れとは? などの哲学的な問題について考えることが多くありました。今の時間に関する研究の底流となっています。

 


趣味・休日は?

長野に自分で別荘を建設しています。設計から建設、仕上げまで自分でやっていて、実験と同じでとてもおもしろいです。頭に描いたものができあがっていくのはすばらしい体験です。また、実験をカナダのバンクーバーの研究所で行っているので、今は月に二往復くらいし、カナダの風土を楽しんだりもしています。2011年度は一年間、研究休暇(サバティカル)でバンクーバーに滞在し、研究だけでなく海に山に最高の時間を過ごしました。

 


最近読んだ本

京都大学山岳部の大先輩でもある西堀栄三郎氏の『石橋を叩けば渡れない』(生産性出版)を数年ぶりに手に取りました。西堀郎氏は南極越冬隊を率い日本初の成功に導いた人です。登山家でありながら技術者であり、また、原子力発電の創成期に深く関わった方の考えやアドバイスには、今の自分や社会に対して見透かしたような名言があふれていました。

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おすすめの本

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』

ファインマン、大貫昌子:訳(岩波現代文庫)

量子電磁力学の建設など現在の素粒子物理学に決定的な貢献をした天才物理学者の自叙伝。強いあこがれを抱かせてくれます。

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『世界でもっとも美しい10の科学実験』

ロバート・P・クリース 青木薫:訳(日経BP社)

先人がどんな苦労をして、教科書に書いてあるような知識を実験的に見出していったのかがよくわかります。無味乾燥だった知識が生きて見えてくると思います。

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先生の専門分野に触れる本

『ワープする宇宙 ―5次元時空の謎を解く』

リサ・ランドール 向山信治:監訳 塩原通緒:訳(NHK出版)

余剰次元を含むような、非常に難解な最新の物理学理論を比較的に取っつきやすいかたちで紹介しています。ただ、決して読みやすく、やさしい本ではありません。

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『神がつくった究極の素粒子』

レオン・レーダーマン 高橋健次:訳(草思社)

実験で素粒子物理学の世界が明らかにされている様子を、現場で主導した作者がいきいきと描き出しているだけでなく、その意味も平易に語られています。

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