ニューリーダーからの1冊

計算知能専門の石渕久生先生(大阪府立大)がおススメ

「囚人のジレンマと呼ばれる2人ゲームに対するゲーム戦略の進化についてのおもしろい本です。」

 つきあい方の科学 バクテリアから国際関係まで

R. アクセルロッド (ミネルヴァ書房

国家間や個々人の関係、あるいは生物界に見られる「つきあい」には、いろいろな利害対立がある。「協調か裏切りか」というジレンマ状況において、最もすぐれた戦略は何か、ゲーム理論とコンピュータを利用して解き明かす。

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進化と学習を繰り返し、自分で賢くなるコンピュータ研究で世界をリード

石渕久生先生 大阪府立大学

<専門分野:計算知能>

「計算知能」とは、コンピュータ内部でプログラムが自分の力で進化や学習を行い、自動的にコンピュータ自身が「賢くなる」という近未来の人工知能だ。新しい研究分野を次々に打ち立て、IEEE計算知能マガジンの編集長を務めるなど国際的にも知られる石渕先生の世界最先端の研究領域だ。

 

 先生

石渕久生(いしぶちひさお) 

専門分野:計算知能

大阪府立大学工学域 電気電子系学類 情報工学課程 教授 

1963年熊本県生まれ 

熊本県立鹿本高校出身

IEEE Fellow

 

米国オーランドでの国際会議にて
米国オーランドでの国際会議にて

 研究

私の専門とする「計算知能」とは、コンピュータ内部でプログラムが自分の力で進化と学習を行い、自動的に賢くなるというアプローチを取った、最新の研究分野です。

 

例えば、チェスや将棋などを行うプログラムを開発する場合では、プログラム間での対戦を繰り返し、強いプログラムから新しいプログラムを生成することで進化や学習が行われます。すなわち、人間の労力を必要とせず、大規模で複雑なプログラムを自動生成することを目標にしています。最終的には、人間や生物のように自分自身で進化や学習を行う人工知能の開発に繋がっています。近い将来、社会性を持った人工知能が人間と共存する全く新しい時代が来るかも知れません。

 

「計算知能」の中で、私の研究室で行っている研究のひとつ「大規模データからの知識獲得」研究では、クレジットカードの使用履歴に関するデータを使って支払い不能となる人の予想や、健康診断の結果から病気の診断や予測を行っています。こうした予測や診断は、人間の脳をモデルとした学習能力を持つ「ニューラルネットワーク」を応用しています。

 

私の研究室では、この「ニューラルネットワーク」や、プログラムを生物のように進化させる「進化計算」研究などを融合した「ハイブリッド計算知能」という研究分野を切り開き、国際的に知られるようになりました。自分自身の新しいアイデアで開拓した研究分野が大きく育つことは、研究者として非常にうれしいことです。

 

IEEE計算知能誌の編集委員の昼食会
IEEE計算知能誌の編集委員の昼食会

石渕先生が、編集長を務めるIEEE計算知能誌の表紙。IEEEはアメリカに本部を置く、通信・電子・情報工学に関する世界最大の学会。


この道に入ったきっかけ

私が大学院を卒業したのはバブル期の直前であり、理系大学院卒が金融機関に就職することが流行していた時代でした。同じ研究室から何人も銀行や証券会社に就職しており、私自身も周囲と同じように銀行や証券会社を中心に就職活動を開始しました。しかし、就職活動を開始した数日後に指導教授から呼び出され、「大学の教員にならないか」と勧められました。まったく考えていなかった進路だったのですが、「君なら研究者として十分にやっていけると思う」と言われて、その気になってしまい、現在の大学に就職することになりました。


研究室の学生と
研究室の学生と

高校時代

数学だけが得意な高校生でしたが、なぜか高2の時に急に読書好きになり、1年間ほど毎日4時間ぐらい本を読んでいました。新聞も毎日じっくり読んでいたので、大学受験の時の得意科目は、数学と国語と社会になっていました。数学に関しては、高2の時、たまたま本屋で手に取った『大学への数学・解法の探求』のエレガントな解答を読んで感動した記憶があります。

 

進路は彼女の影響が圧倒的に大きく、高2の時に「福岡でいっしょに遊べるように九大に行ってね」と言われて進路を決めました。九州大学に現役で合格するのは数年に1人という田舎の高校の彼氏におそろしく高いハードルを与える彼女でしたが、さらに、高3の秋頃、急に「京都でいっしょに遊べるように京大に行ってね」と言われたので、京大工学部を受験することになりました。

 


大学時代

彼女の影響で決めた大学進学だったので、何の目的もなく、なんとなく大学3年間を過ごしていました。研究室に配属された4年生の時に、銀行や証券会社への就職を考えるようになり、下宿で読んでいた新聞を京都新聞から日本経済新聞に変更しました。そのころは、経済学や経営学、マーケティング、経営戦略や経済性工学のようなタイトルの本を読んでいました。

 

大学での授業は難解でしたが、力学、電磁気学、熱力学、材料力学、流体力学と習った後で微分や積分の意味がわかってきて、数学や力学が好きな科目になりました。

 


おすすめの漫画

『浮浪雲』

ジョージ秋山(小学館ビッグコミックス

幕末の江戸を舞台にした漫画。何十年も前に読んだ漫画ですが、今でも、「がんばってもがんばらなくても大丈夫」と応援してくれているような気がします。

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先生の専門分野に触れる本

つきあい方の科学 バクテリアから国際関係までR. アクセルロッド

松田裕之:訳ミネルヴァ書房

囚人のジレンマと呼ばれる2人ゲームに対するゲーム戦略の進化についてのおもしろい本です。

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『盲目の時計職人 自然淘汰は偶然か?』

リチャード・ドーキンス

日高敏隆:編、中嶋康裕:訳(早川書房)

生物進化に関するおもしろい本です。進化シミュレーションの例も示されています。

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『利己的な遺伝子』

リチャード・ドーキンス

日高敏隆、岸由二、羽田節子、垂水雄二:訳(紀伊国屋書店)

有名な生物進化の本ですが、プログラムの進化などに関するおもしろい話題も満載です。

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