ニューリーダーからの1冊

物性理論、ナノサイエンス理論が専門の若林克法先生(関西学院大学)がおススメ
「中に収録されている『光子の裁判』は、量子の世界の不思議さを、朝永先生が平易な言葉で語りかけてくれます。」
『鏡の中の物理学』
朝永振一郎(講談社学術文庫)
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世界中の学者をとりこに。鉛筆の芯にもなる「炭素」の不思議なナノの世界
若林克法先生 関西学院大学
<専門分野:物性理論、ナノサイエンス理論>
同じ物質であっても、サイズをどんどんとナノスケールまで小さくしてやると、性質ががらりと変わってしまうことがわかってきた。例えば、磁性がまったくなかった物質があるとき突然磁性を持つようになる。こんなエキサイティングな研究分野が、若林先生が取り組む「ナノサイエンス」なのだ。
先生
若林克法(わかばやしかつのり)
専門分野:物性理論、ナノサイエンス理論
関西学院大学 理工学部 先進エネルギーナノ工学科 教授
1972年奈良県生まれ 奈良県立北大和高校出身
研究

物質のサイズを、ナノメートル(10億分の1メートル)程度までに小さくすると、物性(物質の示す性質)が大きく変化することが、この15年ぐらいの研究でわかってきました。例えば、「グラフェン」と呼ばれる炭素原子だけからなる一原子層のシート状物質は、磁石に反発する「反磁性」の性質を示しますが、ナノスケールになると、物質そのものが「強磁性」の状態になる可能性を私たちは理論的に指摘しました。ナノスケールの世界で原子が作る構造をデザインすることで、様々な機能を持たせることができ、今までなかった電子デバイスを生み出す期待が高まっているのです。
実はこの「グラフェン」。ただの炭素物質ですが、今世界中の物理学者をとりこにしています。理論・実験の両面から爆発的な勢いで研究が進められています。グラフェンの第一発見者であるNovoselovとGeimは、2010年にノーベル物理学賞を異例の速さで獲得しています。
しかし、私たちの理論研究は、グラフェン研究ブームがおきる随分前の1990年代に遡ります。当時は、グラフェン研究は、とてもマイナーでしたが、グラフェン研究が進展するに従って、私たちの理論の重要性が認められるようになっています。周りとは違った視点で研究することが、とても重要に感じます。

この道に入ったきっかけ
電子工学に興味があり工学系の学部に入学しましたが、専門課程に進むにつれ、量子力学や統計力学などの物理科目に興味が傾いていきました。大学院では、工学系にも物性理論を研究できる研究室があったため、そこに進みました。当時は、ナノサイエンスそのものが、物性理論分野ではマイナーな研究でしたが、卒業研究で、指導教官とこの分野に参入できたのが現在につながっています。
中高時代
高校の物理は退屈に感じられ、あまり得意ではありませんでした。むしろ、化学の方が好きでした。当時NHKが放送した「電子立国日本の自叙伝」を見て、「ものづくり」に強い憧れを持ちました。
大学時代
サークル活動で、本格的なペンシルロケットを試作して、霞ヶ浦によく飛ばしにいったのは、楽しい思い出です。
趣味・休日は?
休日でも研究室に来ることが多いのですが、研究以外では、子どもと遊んだり、近所のプールに泳ぎに行ったりするのが楽しみです。最近は、落語鑑賞も最大の楽しみの一つです。
最近読んだ本
先生の専門分野に触れる本