ニューリーダーからの1冊

植物遺伝学が専門の渡辺正夫先生(東北大)がおススメ
『花はなぜ咲くの?』西村尚子 著、日本植物生理学会 監修(化学同人)
西村さんから私の自家不和合性の研究について取材を受け、聞き書きのようなかたちで紹介してもらった本。高校生にも読みやすい。花にまつわる様々なことが記されています。(6章に渡辺先生の「自分の花粉か他人の花粉か」掲載)
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いつも植物遺伝学のトップランナーでいたい。未知への挑戦で世界と競争
渡辺正夫先生 東北大学
<専門分野:植物生殖遺伝学、植物分子育種学、植物遺伝育種学>
大学生のときから続けている、アブラナ科植物の遺伝研究では常に世界の第一線の研究を行い、国際科学雑誌「Nature」への論文掲載も。今後の人口増加に伴う食糧増産の必要性を考えると、ますます重要となる作物の品種改良。それを支える植物の遺伝学的な基礎研究を行う。
先生
渡辺正夫(わたなべまさお)
専門分野:植物生殖遺伝学、植物分子育種学、植物遺伝育種学
東北大学大学院 生命科学研究科 生態システム生命科学専攻 教授
1965年愛媛県生まれ 愛媛県立今治西高校出身

研究
動植物を問わず、近親交雑をすると遺伝的に劣悪な形質を持つものが現れる確率が高くなりますが、一つの花の中におしべとめしべが同居している高等植物では、自分の花粉が自分のおしべに付着し自家受粉する危険を避けるシステムを様々に構築してきました。そのシステムの一つが、自己花粉では受精せず、異なる個体の非自己花粉で受精が成立する現象「自家不和合性」です。
私は、大学院時代からアブラナ科の「自家不和合性」の分子レベルでの研究を始め、諸外国と競争しながら、2000年に雌しべ側の因子を発見し、国際科学雑誌「Nature」に論文を掲載。一方、花粉側因子を探すために、その当時は、生物個体全部の遺伝子を決めるという一大プロジェクト「ゲノムプロジェクト」にしか使われないような「巨大DNA」を扱うことにチャレンジ。かなりのコストがかかることを承知で、全部のDNAの並びを決定し、花粉側因子の候補を見つけ出しました。発表直前にアメリカの研究グループに先を越されて、Natureに論文掲載はなりませんでしたが、その時の成果は、その後10年間の研究につながっています。先を見越して取り組んだ革新性があったのかもしれません。
誰もやっていない未知のことに挑戦するのは、苦労はあれど、爽快感があります。これまで「Nature」に論文が4回掲載されていますが、何度掲載されてもうれしさはひとしお、また次の山を登ろうという気持ちにさせられるものがあります。

この道に入ったきっかけ
高校1年次、生物学には興味を持てませんでした。しかし、3年次、地理の授業で見た、NHK番組「謎の米が日本を狙う」で遺伝学の素晴らしさを認識。F1雑種育種をするという画期的なもので、それが日本では米あまりの中で実現されないのですが、世界では実現されようとしている。物事は、世界レベルで考えないといけないということを知らされた番組で、結果として、農学部で植物の遺伝学をやろうと決めました。
私が学部、大学院生を過ごした研究室は、「アブラナ科植物」をメインに扱う研究室でした。当時、アブラナ科植物の自家不和合性を制御する、花粉側、雌しべ側の因子は、世界中の誰によっても同定されておらず、それを見つければ、世界でも有名な科学雑誌「Nature」に論文発表できると、研究室の先輩に言われたことがこの課題を選んだきっかけでした。「Nature」の価値はわからず、ただ世界で一番ということにすばらしさを感じて、研究を始めたのです。この「目指せ世界で一番」が、今でも研究をより高く、より迅速にということへのモチベーションになっていると思います。
小学時代
サイエンスのすばらしさに目覚めたのは小学校時代にさかのぼります。小学校の卒業文集に「科学者になりたい」と書きました。その理由は単純で、その当時のテレビには、多くの博士、教授が登場していました。マジンガーZ、仮面ライダー、科学忍者隊ガッチャマン等。マジンガーZを開発したのは兜十蔵博士。博士の死後、マジンガーZは、光子力研究所の弓教授の下で活躍。もちろん、悪のロボットを作る悪い科学者もいる。ガッチャマンでは、地熱エネルギーをめぐって正義と悪が戦うわけですが、それを指揮しているのは、南部孝三郎博士。彼は、東京大学名誉教授で、国際科学技術庁長官。子ども心にかっこよく思えました。
趣味・休日は?
趣味は、旅先でいろいろな植物の花などの写真を撮ること。それから、珍しい植物、野菜を育ててみることが趣味でしょうか。それから、趣味ではないですが、次世代育成をする必要性を感じており、積極的に小中校生に植物科学の楽しさ、科学の楽しさを教える出前講義を、毎年100件程度、手弁当で行っております。その子どもたちからくる手紙に可能な限り返事を書いています。
おすすめの本、映画

『「のび太」という生き方』
横山泰行(アスコム)
自分で生きていくための人生論を、のび太にたとえて、わかりやすく解説しています。これから先の人生で何をどのようにして生きていくのか。しっかりと考えるためにも、参考となる本だと思います。
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映画『ゴジラvs.ビオランテ』『ゴジラvs.デストロイヤー』
最近のゴジラも危機管理ということで、高い評価を受けているようですが、ずいぶん昔になるこの映画からもたくさんのことが見えてきます。『ゴジラvs.ビオランテ』では、ゴジラ細胞の遺伝子をめぐる世界との競争、『ゴジラvs.デストロイヤー』では、ゴジラの炉心が融解し、メルトダウンが起きる。そんなことは現実の世界ではないと見ていましたが、福島第一原発で起こってしまった。はなはだ残念でなりません。
先生の専門分野に触れる本

『花はなぜ咲くの?』
西村尚子著、日本植物生理学会監修(化学同人)
西村さんから私の自家不和合性の研究について取材を受け、聞き書きのようなかたちで紹介してもらった本。高校生にも読みやすい。花にまつわる様々なことが記されています。(6章に渡辺先生の「自分の花粉か他人の花粉か」掲載)
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『わが祖国 ―禹博士の運命の種』
角田房子(新潮文庫刊)
1900年代前半に、日本でアブラナ科作物の類縁関係を明らかにした禹博士。その背景を当時の人物、できごとを踏まえて書いています。韓国籍のこの博士がいなかったら、今のアブラナ科作物の研究はここまで発展していなかったかもしれません。