ニューリーダーからの1冊

物質科学、物性物理専門の木村剛先生(大阪大)がおススメ

「石ノ森章太郎が描く超伝導をめぐるドキュメンタリー漫画。」

 

『マンガ超電導講座』

石ノ森章太郎(講談社コミックプラス

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世界に挑む実験家。トライアル・アンド・エラーを繰り返し、高機能な性質を持つ材料の創製へ

木村剛先生 大阪大学

<専門分野:物質科学、物性物理>

パソコン、マルチメディアの技術に用いられる大容量ハードディスク、液晶ディスプレイ、半導体メモリ、レーザーなどなど…、現在恩恵を受けている科学技術の多くは、「物性物理」という学問を基礎にした研究から生まれている。木村先生は物性物理の分野で、これまでにない高機能の電気磁気効果を示す物性の創製に挑む。

 

 先生

木村剛(きむらつよし) 

専門分野:物質科学、物性物理

大阪大学 基礎工学部 

電子物理科学科 教授 

1968年生まれ 

神奈川県立厚木高校出身


 研究

「電気磁気効果」と呼ばれる100年以上前にフランスの科学者ピエール・キューリー(キュリー夫人の旦那さん)が想像した電気と磁気の普通でない絡み合いが、ここ数年注目を浴びています。電気磁気効果を示す物質は、近年「マルチフェロイック物質」と呼ばれ、これに電圧を加えると、磁石でなかった物質が磁石の性質を持つなど普通の物質では起こらない物理現象が観測できます。

 

しかし、これまで見つかっているマルチフェロイック物質の多くは、マイナス230℃以下でしか電気磁気効果を示さず、実用につながりません。私たちの研究グループでは、従来よりも高い温度で電気磁気効果を示すマルチフェロイック物質の創製に挑戦してきました。その成果として、2008年にはCuOという化学式を持つ単純な銅酸化物がマイナス40℃で、2010年にはSr3Co2Fe24O41という複雑な鉄酸化物が室温でも電気磁気効果を示すことを世界にさきがけて発見することに成功しました。

 

新物理現象、新機能性材料の発見のためには、最初は偶然の産物(ときには運)が必要となることもあるかと思います。しかし、芽が見えたときにそれを足掛かりに、どのような元素や構造を持つ化合物がふさわしいかを考え、実際に合成し、測定するといったことをトライアル・アンド・エラーで繰り返すことにより、高機能な性質を持つ材料の創製へと繋がってくると思っています。

 


この道に入ったきっかけ

マルチフェロイック物質という研究課題に着目したきっかけは、2001年にアメリカのシアトルで開催されたアメリカ物理学会で聴いた講演でした。当時は学界でもマルチフェロイック物質という言葉を知っている研究者はほとんどいない状況で、そこでは複数の理論家によって、マルチフェロイック物質研究に対する否定的な見解が議論されていました。私自身は実験家ですので、机上の否定的な見解を、自らマルチフェロイック物質を創成することによって打ち破ろうと考えたのでした。

 


大学時代

修士課程の大学院生のとき、当時AT&T傘下にあったベル研究所(アメリカ)に5ヶ月間滞在する機会を指導教官から与えられました。そのときは本格研究に関してほとんど無知であったため、当時世界最高峰の研究所の一つであったベル研究所でも特に目覚しい研究の進展も得られず、自分としては不甲斐なく、いずれは再び海外で自分を試してみたいと考えておりました。その後、なかなかそのチャンスを手繰り寄せることができず、その機会が得られたのは最初の渡米から10年以上経てのことで、5年前までの4年間、アメリカの研究所に所属していました。


海外での研究経験で、最もよかったと思うことは研究を通して人脈が大きく世界に広がったということです。また、外から日本を見るという経験も自国をさらに深く知る機会になります。歳をとるとなかなか外に飛び出すといったことはできなくなりますので、ぜひ若いうちに海外で生活する経験にチャレンジしてほしいと思います。

 


先生の専門分野に触れる本

『マンガ超電導講座』

石ノ森章太郎(講談社コミックプラス)

石ノ森章太郎が描く超伝導をめぐるドキュメンタリー漫画。

出版社のサイトへ]※電子書籍

『The Breakthrough: The Race for the Superconductor』

Robert M. Hazen(Ballantine Books

1986年頃の新規超伝導体探索の世界的な競争に関する記載が、人間味も含めて克明に説明されており、当時の熱い雰囲気がよく伝わる本。


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