ニューリーダーからの1冊

電子材料物性が専門の田中雅明先生(東京大)がおススメ
『坂の上の雲』司馬遼太郎(文春文庫)
20代の頃、海外に出かけて行って自分の研究成果を国際会議で発表し始めた時期であり、慣れない英語で苦労しながらも「世界と戦う」という気分であったので、主人公たちと重ね合わせて読んでいた記憶があります。
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エレクトロニクスやITの世界にフロンティアを切り拓く「スピントロニクス」
田中雅明先生 東京大学
<専門分野:電子材料物性、電子デバイス、スピントロニクス>
20世紀後半のIT、エレクトロニクスの技術は、電子の電荷を用いた半導体デバイスの作製によって大きな飛躍・発展を遂げてきたのは知ってのとおり。さらに新しい電子材料とデバイスの基礎研究をめざし、今後の世界の研究の大きな潮流になることが期待されるのが「スピントロニクス」という研究分野だ。
先生
田中雅明(たなかまさあき)
専門分野:電子材料物性、電子デバイス、スピントロニクス
東京大学 工学部 電気電子工学科
/工学系研究科 電気系工学専攻 教授
1961年埼玉県生まれ 開成高校出身
研究
私たちの研究室では、新しい電子材料とデバイスの基礎研究を行っています。とくに近年は、電子のスピンやその秩序(磁性)が顕著に現れるスピン・エレクトロニクス(スピントロニクス)の開拓研究に力を入れ、世界をリードする研究を展開しています。
20世紀後半のエレクトロニクスや情報通信技術(IT)の発展は、主に電子の電荷を用いた様々な半導体デバイスの作製と進歩によってもたらされました。一方、電子はもう一つ“スピン”という本性を持っています。スピンは、古典力学で言えば電子の自転に相当します。この自転は決して止まることがなく、電子は世界最小の磁石であるとも言えるのです。
ところが、エレクトロニクスや情報通信技術を担う半導体においては、“スピン”が使われることはありませんでした。私たちは、電気や光とともにこの“スピン”を積極的に用いる必要がある、そうすればエレクトロニクスの新しいパラダイムを創ることができると考えており、「スピントロニクス」と呼ばれる新分野を開拓しています。この分野は十数前からの私たちによる研究の先駆けもあって、現在では世界的な新しい研究の潮流になりつつあります。
この道に入ったきっかけ
中高時代、数少ない法則から様々な現象を、数学を使って論理的に説明できる物理に魅かれました。世の中を動かす科学や技術の基礎であることも魅力の1つでした。大学は、物理学を使って社会に役立つ工学を専攻したいと考え、工学部電子工学科へ。大学院では量子力学を用いた半導体ナノ構造とナノエレクトロニクスの研究と出会い、研究者の道を志しました。
中高時代
中高時代は野球部でしたがあまり打てず、チームも弱かった。当時は一生懸命やっているつもりでしたが、今から思えばもっと練習して強くなればよかったと思います。
大学時代
1年生からワンダーフォーゲル部に入り、登山とスキーに熱中しました。学部時代は勉強より山に行く方が好きでした。大学院修士課程修了後にはじめての海外旅行でヨーロッパアルプスに行き、オートルートとモンブランに登頂しました。
印象に残った本

『坂の上の雲』司馬遼太郎(文春文庫)
20代で読んだ司馬遼太郎の『坂の上の雲』や『世に棲む日々』。そのころは海外に出かけて行って自分の研究成果を国際会議で発表し始めた時期であり、慣れない英語で苦労しながらも「世界と戦う」という気分であったので、主人公の秋山兄弟や高杉晋作と重ね合わせて読んでいた記憶があります。『坂の上の雲』の正岡子規と秋山真之が学んだ神田の共立学校は母校の前身でもあるので、その点でも興味深かった。
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