ニューリーダーからの1冊

神経科学、遺伝子治療学、幹細胞治療学が専門の平井宏和先生(群馬大)がおススメ
『ジェノサイド』高野和明(角川文庫)
壮大なスケールで描かれていて、難病の子供を、自分の研究でこんなふうに治せることが理想です。現代医療で治せない難病に対して医師は無力で、研究者が治療するということを知ってもらいたい。
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脳にはまだ謎も多い。脳の難病を根本から直したい
平井宏和先生 群馬大学
<専門分野:神経科学、遺伝子治療学、幹細胞治療学>
アルツハイマー病やパーキンソン病、映画『1リットルの涙』で話題になった脊髄小脳変性症など脳に関する難病に、遺伝子や幹細胞を用いた治療法研究で挑む。遺伝子治療や幹細胞治療は、難病を根本から治す可能性を秘めており、多くの難病治療に貢献できる。
先生
平井宏和(ひらいひろかず)
専門分野:神経科学、遺伝子治療学、幹細胞治療学
群馬大学 医学部 医学科 教授
1964年大阪府生まれ(奈良県育ち) 大阪教育大学附属高校平野校舎出身
研究

私の専門の神経科学では、脳が作られるしくみや記憶・学習のメカニズムなどが研究されていますが、アルツハイマー病、パーキンソン病や脳の遺伝病で神経細胞がどのようなメカニズムで障害を起こすかについても研究されています。脳はまだまだわからないことだらけで、未だに不治の病がたくさん存在します。それらのいくつかについては、DNAやRNAを用いた遺伝子治療や、幹細胞を用いた幹細胞治療により、少なくとも動物実験レベルでは著しく回復するということがわかってきました。
私は、その中で、特に脳の難病である脊髄小脳変性症の研究を行っています。この病気を発症した少女の実話『1リットルの涙』は、沢尻エリカさんが主演でドラマ化され、知っている方も多いかと思います。脊髄小脳変性症は日本に2万5千人の患者さんがいます。私は小脳の神経細胞に、働きが全くわかっていない遺伝子を外から導入してどのような変化が起きるか観察することで、その遺伝子が小脳で果たす役割を研究していましたが、その手法を応用して、治療作用のある遺伝子を導入することで脊髄小脳変性症の治療ができるのではないかと考え研究を進めています。
この道に入ったきっかけ

患者さんを治すことができると思って医学部に進みました。大学6年生になり、スペシャリストがよいと考え、放射線科医になることを決めました。しかし研修医、大学院生(放射線科)になると、学生時代に考えていた様子とはまったく違い、患者を治せない無力感を感じる日々でした。そこで大学院の2年目から神経生理学に進路変更し、脳研究をはじめました。今は、患者さんが治り、笑顔を取り戻せる日へ一歩一歩近づいている実感があります。患者さんやご家族の方にとっては、一生懸命治療法を研究している人がいるというだけで、大きな希望を持つことができるということを伺いました。まだ動物実験の段階ですが、成果を公表すると多くの患者さんとご家族から手紙やメールをいただき、いっそうがんばらなければ、という気になります。
おすすめの本、映画

『時生』
東野圭吾(講談社文庫)
遺伝性難病の子供が、人生に何を感じて生きていたのか、作品を読み進めるにつれてわかってきます。ストーリーもたいへんおもしろいです。私は3回読みました。
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『ゲーム』
マイケル・ダグラス主演、1997年公開の映画。受験勉強に疲れたときに、見るとスッキリします。
先生の専門分野に触れる本