ニューリーダーからの1冊

ストレス情報伝達学、免疫制御学が専門の松沢 厚先生(東北大)がおススメ

『新・現代免疫物語 「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異』

岸本忠三、中嶋彰(講談社ブルーバックス)

基本的な免疫の仕組みや、現在大きく発展を遂げた抗体医薬や自然免疫について学べます。2016年発刊の『現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病』も。最新の免疫研究のトピックスが理解できます。

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オリジナリティーの創出が研究の目的。既存とは異なる視点でシグナル伝達研究を展開

松沢 厚先生 東北大学

<専門分野:ストレス情報伝達学、免疫制御学>

生体や細胞は、常に活性酸素や放射線、環境変化などのストレスに晒されている。そのストレスに適応するためには、細胞内で情報(シグナル)が上手く伝達され、細胞の中の全ての分子が協調して機能しなければならない。松沢先生は、活性酸素や放射線と同様に、病原体による感染も一つの「ストレス」であるという独自の視点から、適切な免疫応答を誘導するために必要な免疫シグナルの制御機構について研究。様々な免疫疾患の新たな治療法の開発に役立てていくことを目指している。

 

 先生

松沢 厚(まつざわ あつし)

専門分野:ストレス情報伝達学、免疫制御学

東北大学 大学院薬学研究科 衛生化学分野 教授 

1966年長野県生まれ 長野県立上田高校出身


 研究

生体や体の中の細胞が、常に晒されている活性酸素や放射線、環境変化などのストレスに適応するためには、ストレスに対して適切な応答を行うことが必要です。その適切なストレス応答のためには、細胞内で情報(シグナル)が上手く伝達され、細胞の中の全ての分子が協調して機能しなければなりません。このストレスに対する細胞内シグナル伝達の仕組み(システム)を詳細に明らかにし、このシステムを構成するシグナル分子を標的とした創薬の開発を目指しています。

 

私たちは、病原体感染も、実は生体にとっては、活性酸素や放射線などと同様に、一種のストレスとして捉えることができるという点に着目しました。実際に生体は、病原体感染や活性酸素という異なるストレスに対応するために、同じシグナル経路を共有していることがわかりました。したがって、活性酸素などのストレスに対するシグナル伝達機構を研究することによって、病原体感染に対して適切な免疫応答を誘導するために必要な免疫シグナルの制御機構が理解でき、様々な免疫疾患の治療薬や治療法の開発につながると考えています。

 

この研究の一つのオリジナリティーは、病原体感染も活性酸素や放射線などと同様に、生体にとっては同じストレスであると捉えた点にあります。病原体感染だけでなく、現在、私たちが新たに晒されるようになった化学物質や薬物、環境変化などの様々なストレスに対して、生体や細胞はもともと持っていた基本的なシグナル経路を用いて適応しています。この基本的なシグナル経路の解明が、新たなストレスに対するシグナル伝達の仕組みの理解につながるのです。オリジナリティーの創出が科学研究の本質的な目的です。オリジナリティーのある新たな研究を展開していくためには、これまでの既存の研究とは違う視点やアイデア、方向性が不可欠であり、それらを見極めるための最新情報の収集や注意深い洞察力が必要だと考えています。

 

研究室のみなさんと。左端が松沢先生
研究室のみなさんと。左端が松沢先生

この道に入ったきっかけ

この研究に進んだきっかけは、私が大学院生時代、ちょうどシグナル伝達研究が一つのピークを迎えていて、特にMAPキナーゼシグナル伝達経路について、新たな分子の同定や機能が続々と明らかになった時期であり、それらの多くの研究に深く感銘を受けたからです。また当時、キナーゼなどのシグナル分子を標的とした創薬が注目されており、それが現在の抗がん剤などの開発につながっています。

 


中高時代

研究の道に進むことは、まだ具体的に考えていませんでした。ただ漠然と、科学や美術、音楽、小説など、いずれの分野でも、ある変革期のキーマンには憧れを持っていました(例えば、美術の分野でのカンデンスキーや、音楽でのストラビンスキーなど)。大学進学の際も、日本の科学や小説などの分野を変革したイノベーターを数多く輩出した母校ということを意識して選択しました。微力でも自分が関わることで新しいものが生み出せる分野は何かと考えた時に、科学研究なら可能かもしれないと思ったわけです。

 


趣味・休日は?

家族との休日の散歩が私の趣味の一つです。東北大学のある仙台は、定禅寺通りや青葉通りといった並木道が走り、街に沿う広瀬川や緑豊かな青葉山を見上げる、まさに杜の都です。公園や美術館に立ち寄ったり、杜の木陰や賑やかなアーケード街を歩いたりする仙台散歩は心も和らぎます。 

 


先生の専門分野に触れる本

『新・現代免疫物語 「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異』

岸本忠三、中嶋彰(講談社ブルーバックス)

基本的な免疫の仕組みや、現在大きく発展を遂げた抗体医薬や自然免疫について学べます。創薬という観点も盛り込まれています。

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