ニューリーダーからの1冊

固体物理が専門の湯浅新治先生(産業技術総合研究所)のおすすめ

『科学立国日本を築く―極限に挑む気鋭の研究者たち』

丸文研究交流財団選考委員会:編集(日刊工業新聞社)

エレクトロニクス関連の研究開発に携わる若手研究者の登竜門と言われる「丸文学術賞」の過去の受賞者30名が、それぞれの研究を紹介。理系を目指す高校生を対象に、最先端のエレクトロニクスの研究がわかり易く解説されている。

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新たなエレクトロニクス時代を担う電子素子を世界に先駆けて開発

湯浅新治先生 国立研究開発法人産業技術総合研究所

<専門分野:固体物理、磁気工学、スピントロニクス>

トランジスタ、LSIなど半導体エレクトロニクスは、20世紀の人類の暮らしを飛躍的に発展させてきたが、さらなる新しい電子部品の創出を目指す分野が「スピントロニクス」。最近のハードディスクの大容量化を支える技術だ。湯浅先生はその心臓部と言われる重要な電子素子を、新たな素材に注目し、「急がば回れ」の精神で、世界に先駆けて開発した。

 

 先生

湯浅新治(ゆあさしんじ) 

専門分野:固体物理、磁気工学、スピントロニクス

国立研究開発法人産業技術総合研究所 スピントロニクス研究センター 研究センター長

1968年神奈川県生まれ 神奈川県立茅ヶ崎北陵高校出身

 


 研究

従来では実現できなかった新しい電子部品の創出を目指す分野が「スピントロニクス」。ハードディスクの大容量化を支える技術です。そのスピントロニクス技術を活用した新しいコンピュータのメモリ(MRAMという)の研究開発が世界規模で盛んに行われています。MRAMは、電源を切っても記憶情報が保持される「不揮発メモリ」であり、これを使うとコンピュータやIT機器の消費電力を削減することができるのです。

 

私は、スピントロニクス分野で最も重要な技術であり、その「MRAM」の心臓部である、「MTJ素子」という電子素子の発明者の一人です。現在もMTJ素子の高性能化と新しい応用分野の開拓に携わっています。

 

世界中の研究者がMTJ素子の高性能化を10年にわたって目指してきましたが、頭打ちの状態でした。私は新しい素材に注目し、その実験装置の開発に取り掛かりました。1年間苦労して開発した実験装置を用いてMTJ素子の作製を開始したところ、わずか1ヶ月で世界最高性能の実現に成功。研究開発というのは「急がば回れ」であり、実験装置の作製に十分な手間暇を掛けたお陰で、結果的に世界に先んじて成果を挙げることができたのだと思います。

 


この道に入ったきっかけ

高校時代、美術が得意だったため、美術の先生から美大に進むことを勧められましたが、物作りに興味があったためロボットの研究をしたいと理工学部に進みました。大学に入学したころ「高温超伝導体ブーム」があり、固体物理学のインパクトの大きさを知り、以降、現在まで固体物理の分野を歩み続けています。 

 


おすすめのTV番組

『プロジェクトX』NHK

科学者・技術者の研究開発にかける執念を見て欲しい。

 

イギリスBBC制作のドキュメンタリー・特集番組

全般的に非常にレベルが高い。特に科学や歴史。

 


先生の専門分野に触れる本

『科学立国日本を築く―極限に挑む気鋭の研究者たち』丸文研究交流財団選考委員会:編集(日刊工業新聞社)

エレクトロニクス関連の研究開発に携わる若手研究者の登竜門と言われる「丸文学術賞」の過去の受賞者30名が、それぞれの研究を紹介。理系を目指す高校生を対象に、最先端のエレクトロニクスの研究がわかり易く解説されている。(Part II(仮題)が2017年3月出版予定)

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