ニューリーダーからの1冊

生物学が専門の清末優子先生(理化学研究所)がおススメ
『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』P・F・ドラッカー(ダイヤモンド社)
経済学者ドラッカーの一連の本で、これからの混沌とした社会ではイノベーションを続けることがいかに必要かを学びました。学問の世界でも昨今の変化は激しいですので、いつまでも古い慣習や手法に固執していては生き残れないということは同様です。
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生きて活発に活動している細胞を観察する高度な技術で細胞の謎を解く
清末優子先生 理化学研究所
<専門分野:発生細胞生物学、細胞骨格>
まったく細胞というやつはおもしろい! 細胞を形作る土台「細胞骨格」の中の「微小管」は、細胞の中で物質を輸送するためのレール。どうやって正確に敷設する? 積み荷は何? その謎に挑む清末先生は、細胞の中で起こっていることを実際に見て確かめるのが好き。生物学研究と共に、顕微鏡の観察技術の向上も目指す。
先生
清末優子(きよすえゆうこ)
専門分野:発生細胞生物学、細胞骨格
理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 細胞動態解析ユニット ユニットリーダー
1967年栃木県生まれ 栃木県立宇都宮女子高校出身
研究

私は、細胞を形づくる土台となる構造「細胞骨格」の中の「微小管」という構造体に着目して、私たちの健康な活動を維持するためにひとつひとつの細胞の中の社会がいかにして秩序を保っているのかを明らかにする研究をしています。
微小管は細胞の中での物質輸送のためのレールで、このレールを正しく敷設しないと、様々なオルガネラや物質が正しい場所に配置されず、細胞が本来の機能を果たせなくなります。どのように微小管の配置が正しく決まるのかの研究が全くなされていなかったため、私はその研究に着手し、微小管の先端の場所を決める分子が存在することを見つけてきました。現在は、微小管がどのような物質―実際に生命機能制御を担う“積み荷”―を輸送しているのか研究しています。また、細胞が分裂して増殖していくときに、染色体(遺伝子)をふたつの娘細胞に正確に分配する役割を担うのも微小管です。がんなどの遺伝子疾患を防ぐために誤りなく細胞分裂を進めるためのメカニズムも研究しています。
私は、細胞の中で起こっていることを実際に見て確かめることが好きで、興味ある分子を蛍光タンパク質で見えるようにしてその働き方を顕微鏡で詳しく調べることを最も重要な手段としています。「ライブイメージング」という技術です。活発に活動している細胞を観察していると、まったく予想もしていなかった現象を見つけることもしばしばあります。観察技術が進歩すれば、これまで見えていなかった新しい真実も見えてくるので、技術の進歩も重要です。新しい技術を取り入れながら知識もさらに深めています。
この道に入ったきっかけ
もともと生き物や考えることが好きで、当然のように続けてきて現在に至っています。
近年の学問の変化
過去30年が、生命現象を個々のパーツ(遺伝子やたんぱく質などの分子)を詳細に解析することで理解しようとする時代であったのに対し、現在では個々のパーツの働き方がおおよそわかってきていて、それらがバランスのとれた生命活動を担うためにどのように組織化されて個体の中の複雑な環境の中で用いられているか、システムとして考える方向性が強まっています。手法としても、分野を細分化するのではなく、多様な手法や考え方を融合し総合的に理解しようという方向です。学問の世界では排他的になりがちで他の分野を認めないことがしばしばありますが、そのような姿勢は現代ではもはや陳腐です。しかしこれまでの知識の蓄積を軽視することも不遜です 。現代の学問は「巨人の肩の上に立つ」と言われるように、先人の偉大な発見から連綿と続いている学問の潮流の中で活動していることは忘れてはいけないと思います。
最近読んだ本

『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』
P・F・ドラッカー 上田惇生:編訳(ダイヤモンド社)
経済学者ドラッカーの一連の本で、これからの混沌とした社会ではイノベーションを続けることがいかに必要かを学びました。学問の世界でも昨今の変化は激しいですので、いつまでも古い慣習や手法に固執していては生き残れないということは同様です。読みやすいエッセンシャル版『イノベーションと企業家精神』もおすすめ。
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