ニューリーダーからの1冊

1分子・1細胞生物学研究が専門の上村想太郎先生(東京大)がおすすめ
『新・生物物理の最前線―生命のしくみはどこまで解けたか』日本生物物理学会(講談社ブルーバックス)
物理の視点で生命を解き明かす生物物理学の最前線をわかりやすく解説。
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医療革新に貢献する1細胞計測技術の確立を目指す
上村想太郎先生 東京大学
<専門分野:1分子・1細胞生物学研究>
1分子・1細胞生物学とは、生体分子や細胞の挙動を1分子・1細胞レベルで精密に観察・測定、操作することを基盤にしたまったく新しい学問のこと。上村先生は、1個の分子や細胞をターゲットに1分子・1細胞計測技術を開発、今までたくさんの細胞や分子の集合ではわからなかった1個1個の分子や細胞の仕組みを明らかにすることによって、生命の根本的な仕組みを解明する。将来は、1細胞計測技術を用いた医療応用へと発展させ、医療の革新に貢献したいと意気込む。
先生
上村想太郎(うえむらそうたろう)
専門分野:1分子・1細胞生物学研究
東京大学 理学部 生物化学科/理学系研究科 生物科学専攻 教授
1977年福岡県生まれ
研究
普段生活していると平均という言葉が多く使われます。平均年収、平均体重、平均株価など挙げたらキリがありません。あまり疑問に思わないかもしれませんが、平均の値というのは集団の値を代表していることを前提に使っているのです。しかし、集団が多種多様であればあるほど、平均の値はそれを反映することはできません。細胞や分子の世界も同じです。臓器は細胞の集まりであり、細胞は分子の集まりです。集団として計測するとわからないのですが、1個1個の分子や細胞は実に多種多様な反応を見せてくれます。
例えば、ある細胞はサボって全く働かなかったり、すごく働いたり、急に何かに目覚めたように働いたりするのです。これは細胞の個性を表しています。
私たちは細胞や分子の個性は生命の根源であり、こうした個性が生命を形成し、時には病気の原因にもなると考えています。
そこで私は分子や細胞がどうしてこのような個性を持つのかを知りたいと考え、1分子計測技術や1細胞計測技術を共同研究者と共に開発しました。特に1個の細胞の遺伝子発現を詳しく調べることによって個性の謎に迫ろうと考えています。従来、私は1分子計測技術をきっかけに研究を始めましたが、理化学研究所の林崎良英博士と出会ったことや、家族の病気が原因となり、医療応用を目指した細胞の研究を目指すようになりました。
私は実際に次世代シーケンサーに用いられている1分子計測技術を別の生命現象であるタンパク質翻訳へと応用し、まったく新しい現象を見出しました。現在は新しい1細胞計測技術の開発を進めています。さらにはあらゆる細胞1個1個を網羅的に遺伝子解析し、新しい生命現象をどんどん明らかにしていきたいです。ゆくゆくは病気の治療、創薬、健康管理、先制医療など多岐にわたって影響を及ぼし、世界中の医療の先端開発を押し進めることができるでしょう。

この道に入ったきっかけ
高校時代は漠然と宇宙へのあこがれがあったので、大学では物理を勉強したいと考えていました。しかし大学入学後の物理の勉強の多くは紙の上での理論計算だったため、徐々に興味が薄れてしまい、反対に生命科学に魅力を感じていきました。そんな中、大学の生物物理研究室である石渡信一教授との出会いによって物理学を使った生命現象の解明という学問に実際に触れることができ、現在のような研究に進んでいきました。
留学時代
博士号を取得した後、海外で研究したいと考え、アメリカの研究室をたくさん訪問して自分を売り込みに行きました。結果的に前米国エネルギー省長官で1997年のノーベル物理学賞受賞者であるスティーブン・チュー先生の指導の下、スタンフォード大学で2年半の間博士研究員を経験しました。このようなすばらしい指導者から直接指導を受けたことが私の研究人生でとても大きな転換になったと思います。そのためにはあきらめずに積極的になり、熱意を伝えることが大事だと感じました。
研究は世界の最先端でありつづける必要があります。独創性も求められますし、必ずしも期待した答えが得られるとも限りません。しかし、世界を相手に、誰も知られていないような実験結果を得たときは大きな達成感や満足感があります。
おすすめの本

『からだと病気-どうすれば治るのか?そもそも原因は?(Newton別冊)』 (ニュートンプレス) 写真やイラストが多く、興味を持てる内容ではないかと思う。他のニュートン別冊シリーズも大変おすすめ。
先生の専門分野に触れる本