ニューリーダーからの1冊

社会心理学(メディア分析)が専門の鈴木佳苗先生(筑波大)がおすすめ
『何のために「学ぶ」のか』
外山滋比古、前田英樹、今福龍太、茂木健一郎、本川達雄、小林康夫、鷲田清一(ちくまプリマー新書)
中高生がこれからの学びについてのたくさんのヒントを得ることができる本です。
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メディアの子どもたちへの影響を解明、教育への活用もめざす
鈴木佳苗先生 筑波大学
<専門分野:社会心理学(メディア分析)、教育工学>
現代社会では、子どもたちはメディアを通して様々な情報を得たり、経験をしたりしている。メディア利用が学力や対人的な側面に及ぼす影響を検討し、どのような条件がよい影響を促進し、悪影響を低減するのかなどを分析。分析結果を学校や図書館等と連携して行う実践に活かし、教育効果の測定も行う。
先生
鈴木佳苗(すずきかなえ)
専門分野:社会心理学(メディア分析)、教育工学
筑波大学 情報学群 知識情報・図書館学類 准教授
研究
私は、テレビ、テレビゲーム、インターネット、本などのメディアの利用が子どもたちに及ぼす影響や、メディアを教育に活用していくための方法などについて研究をしています。専門分野としてあげた「社会心理学」は、社会的な状況で人がどのように考え、感じ、行動するのかを実証的に研究する分野です。また、「教育工学」は、授業や教育の向上を目指して情報技術を用いた教育内容・方法を設計し、実践を行ったり、情報技術の教育的な利用についての提案を行ったりする分野です。
中高校生の皆さんは1日に数時間、テレビを見たり、スマートフォンを利用したりしていると思います。このようなメディアの影響には、よい影響も悪影響も見られます。例えば、人を助ける行動を含む映像を見たり、人を攻撃する行動を含む映像を見たりすると、見た行動と同様の行動が促進されることなどが報告されています。ただ、どんな場合でも同じ結果が見られるわけではなく、我々の研究グループが行った調査では、人を攻撃する映像であっても攻撃を受けた人の周囲の人の悲しみの描写などが含まれているものを多く視聴すると、攻撃的な行動が少なくなる場合がありました。このような研究成果は、映像の特徴を詳しく分析し、その特徴と影響について理解するといった教育実践の内容を考える際などに活用することができます。
このほかに、同じようなメディアの内容に同じくらい接触していても、個人の特徴(パーソナリティや、メディアを読み解き、評価する力など)によってもメディアの影響は違ったものになります。日本はメディア規制が弱く、子どもたちが自分自身でメディアの内容を読み解き、評価する力が一層求められています。日常生活を豊かにするメディアの利活用を目指して、メディアの内容を読み解き、評価する力を含めて、子どもたちの総合的なリテラシーを高めていく教育内容・方法を検討していくことがこれからの大きな課題です。

この道に入ったきっかけ
高校生の頃から、自分の関心のある課題について時間をかけて検討していくことができる研究の仕事がしたいと思っていました。
私たちが日ごろ、人に関する情報に対してどのように認識したり、判断をしたりするのかについては以前から関心がありました。このテーマの研究成果をまとめた後、アメリカの大学でメディアの内容を分析する手法を学んだり、メディア利用の影響に関する国際比較研究を行う機会があり、メディアが伝える情報の特徴を明らかにし、複雑なメディア利用の影響を解明していくことへの関心が高まっていきました。
おすすめの本

『何のために「学ぶ」のか』
外山滋比古、前田英樹、今福龍太、茂木健一郎、本川達雄、小林康夫、鷲田清一 桐光学園、ちくまプリマー新書編集部:編(ちくまプリマー新書)
中高生がこれからの学びについてのたくさんのヒントを得ることができる本です。
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先生の専門分野に触れる本

『メディアとパーソナリティ』
坂元章:編(ナカニシヤ出版)
テレビ、テレビゲーム、インターネット、ケータイの利用がパーソナリティに及ぼす影響や、パーソナリティとメディア利用の関係などについてわかりやすく解説しています。
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『メディア・リテラシー:世界の現場から』
菅谷明子(岩波新書)
メディア・リテラシーを高めるための様々な取り組みが紹介されています。出版年は少し前になりますが、日本のメディア教育の課題を考えるうえで、非常に参考になります。
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他に、『今こそ読みたいマクルーハン』(小林啓倫/マイナビ新書)、『徹底図解 社会心理学』(山岸俊男/新星出版社)も参考になります。