ニューリーダーからの1冊

分子生物学が専門の黒柳秀人先生(東京医科歯科大)おススメ

 

『見えない巨人―微生物』

別府輝彦(ベレ出版)

研究の面白さを知るきっかけとなった別府先生の最近の本です。

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RNAの加工パターンを動物が生きたまま観察する手法を開発。遺伝子発現のしくみに迫る

黒柳秀人先生 東京医科歯科大学

<専門分野:分子生物学>

遺伝子がはたらくしくみは、ヒトを含む哺乳類と線虫やショウジョウバエなどのモデル動物でとてもよく似ている。黒柳先生は、蛍光タンパク質を使ってミニ遺伝子を作製、モデル生物に導入し、RNAの加工パターンを生きたまま観察する方法の開発に成功した。一つの遺伝子から多様なRNAやタンパク質が作られるしくみを解明し、複雑なヒトの遺伝子発現制御のしくみやその破綻による疾患の解明につなげたいと考える。

 

 先生

UCLA近くで
UCLA近くで

黒柳秀人(くろやなぎひでと) 

専門分野:分子生物学

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 准教授 

米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 客員准教授

1970年東京都生まれ 

愛知県立岡崎高校出身


 研究

真核生物の多くの遺伝子では、DNAの遺伝情報がRNAに転写される際、転写後のRNAから「イントロン」と呼ばれる不要な領域を取り除いて「エクソン」と呼ばれる必要な領域どうしをつなぐ「スプライシング」と呼ばれる加工が行われて成熟したメッセンジャーRNA(mRNA)となり、それが翻訳されてタンパク質が作られます。そのmRNAの加工のパターンは必ずしもひと通りではなく、1つの遺伝子からでも複数の種類のmRNAが作られ、その結果として限られた数の遺伝子からでも多様なタンパク質が作られるのです。しかし、どのようにして細胞の種類や分化段階によってmRNAの加工パターンを変えることができるのかその詳細はまだよく解っておらず、「細胞暗号」とも呼ばれています。

 

組織によってスプライシングパターンが異なる三色レポーター線虫
組織によってスプライシングパターンが異なる三色レポーター線虫

従来の研究手法では、生物やその臓器などからmRNAを取り出して調べるしかありませんでした。しかし、それでは生物は死んでしまいますし、そのmRNAがその生物や臓器の中のどの種類の細胞にあったのか、という情報は失われてしまいます。そこで、私は、複数の蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質GFPや赤色蛍光タンパク質RFPなど)を利用してミニ遺伝子を作製し、生物のからだの中でどの細胞がどんなパターンのスプライシングを受けているか、生きたまま観察する方法を開発しました。体が透明な線虫(C. elegans)に様々なミニ遺伝子を導入してみると、筋肉特異的だったり成長に従って変化したりと、遺伝子によっていろいろなパターンでスプライシングが起こることが明らかになり、その制御に必要な遺伝子上の配列や細胞ごとの制御因子を発見することができました。

 

修士論文発表会を終えた学生たちと
修士論文発表会を終えた学生たちと

この道に入ったきっかけ

大学2年の専門科目で発酵のことを勉強して、自然界から有用な微生物を探索する研究に興味を持ちました。さらに分子生物学を学び、遺伝子のはたらきが微生物から哺乳類まで共通であることに衝撃を受けて、そのしくみを専門に研究できる学部・学科へ転向しました。その後いろいろな研究室、研究テーマ、研究手法を体験しましたが、現在の研究テーマは、大学生の当時いろいろ勉強したなかでも特におもしろいと思っていたものです。

 


大学時代

総合大学だったためいろいろな学部・学科の先輩や友人がいたおかげで、彼らの夢やその後のキャリアを彼・彼女らを通じて疑似体験できたことが、後に自分が納得して職業を選ぶ上でとてもプラスになりました。学問の中身は教科書などで知ることができますが、それぞれの学問の研究者や学生が何に興味を持って今何をしているのか、直接お話を聴くことができるのが大学の最大の魅力だと思います。 

 


趣味

学会などで国内外に出かけた際には、自分の足や自転車やバスで動き回るようにしています(普段はなかなか時間がないので)。なるべく地図は見ず、周りの地形や人の動きを見て街ごとのポイントをかぎまわる感じで。ブラタモリ(NHK)と気が合います。機会がある時はスポーツ観戦。野球、大相撲、サッカーなど。

 

WBC2017決勝戦(ドジャースタジアム)で
WBC2017決勝戦(ドジャースタジアム)で

おすすめの本

『見えない巨人―微生物』

別府輝彦(ベレ出版)

研究の面白さを知るきっかけとなった別府先生の最近の本です。

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映画『THE COVE』

2009年、アメリカ。日本のイルカ漁を描いたドキュメンタリー。ニューヨーク大学に寄ったときにイタリア出身の研究者から「日本人はどう思ってんだ?」と聞かれて、映画のこともイルカのことも知らないと答えたらあらすじを説明してくれ、その後その足で映画館に観に行きました。個人的に、文化的背景が異なる人たちには理解しづらい日本人的なものを言葉で伝えることのたいへんさを実感したエピソード。後年、「入り江」にも行きました。

 


先生の専門分野に触れる本

『マンガ生物学に強くなる』

堂嶋大輔:作、渡邊雄一郎:監修(講談社ブルーバックス)

生物学の「食わず嫌い」はもったいない!

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『線虫の研究とノーベル賞への道 1ミリの虫の研究がなぜ3度ノーベル賞を受賞したか』

大島靖美(裳華房)

線虫を生物学の研究に使いたくなる理由を研究者の視点で紹介しています。

[出版社のサイトへ]