この仕事をするならこんな学問が必要だ<医薬品業界編>

遺伝子治療薬、抗体医薬品など、最先端創薬の開発研究が目白押し!薬学に加え情報処理の知識も求められる

アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社

薬事部 小池敏さん

 

以前、薬作りのほとんどの薬剤が有効性成分の探索が宝探しのようにして発見されたのに比べ、21世紀の創薬のすごい進歩は、いくら強調してもしすぎることはないでしょう。一方、製薬業界はグローバル化が急速化、再編が進んでいます。2013年、国内2位のアステラスは、世界最大の独立バイオテクノロジー企業であるアムジェンと合併会社、アステラス・アムジェン・バイオファーマを創設しました。同薬事部でバイオ医薬品の開発を行う小池敏さんに、最先端新薬の創薬の流れの中で、必要とされる人材、背景となる学問は何を学べばいいのかについて伺いました。

上記の書籍は、おすすめ本

 『黄金のDNAらせん』

新井賢一、黒川清、野口照久、吉田文紀(日本経済新聞社)

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第1回 製薬会社の仕事~成功率は1万分の1の確率だが、1個の創薬が何万人の命を救う喜び

新しい1つの薬が作られるまでどれくらいかかるかという話から始めることにしましょう。最初の約2年は「基礎研究」で、これは新規物質の創成の期間で、本当の意味でディスカバリーです。その後は大まかに言って以下のプロセスを辿ります。

 

基礎研究(新規物質の創成)→スクリーニング→動物実験→治験→承認

 

「スクリーニング」とは、主に化学の方法を中心とした様々な分離法を用いて、化合物をふるいにかけ、薬効あるものをきっちり取り出す技術のことです。その後、毒性試験を含めた「動物実験」が約2年、人への臨床試験(「治験」)に5~6年を経て、医薬品として承認されるまで、ざっと平均12年かかると言われます。

 

さらに1つの薬が承認されるまでの成功率は非常に低いです。今、成功率は1万分の1の確率と言われています。ただし1つの薬の売上額が1000億円を超える医薬品が開発できれば、特許保護期間などで得られる利益は安定します。このような薬はブロックバスターと呼ばれ、製薬各社の大きな収益源になっています。ただし、特許期間終了後、ジェネリック医薬品が登場すると収益は激減します。

 

いずれにしても製薬会社は、新しい医薬品を継続的に創り続けなければなりません。そのためにどんな学問が必要でしょうか。まず大学で学んだ専門性が必ずしも生かされるとは限りません。私自身で言えば、理学部生物系の出身で内分泌が専門で、専門を生かして薬理の部門に行きたかったのですが、配属された先は生殖毒性の部門でした。薬理というのは、薬が効くかどうかを総合的に見てきます。つまり薬物治療の基盤を確立する研究を希望していました。ですから入社当時は正直がっかりしました。でも、大学で生殖内分泌を研究していたことが役に立ちました。仕事と学問のギャップはつきものですが、会社のほうもそれなりに人材の見極めをしているのですね。

 

採用で求める人材は、スペシャリティを何か1つ持っている人ということになるでしょうか。俗に言う“鼻のきく人”っています。創薬の可能性のある新しい薬のシーズ(種)に鼻のきく人の中から、やがてベンチャーを興し、成功するということがあります。

 

最初に言いましたように、創薬は成功率の非常に低い仕事です。1、2年のスパンで成果を求める人には、物足りないかもしれません。確かに非常に厳しい仕事ですが、1個の創薬が何万人の命を救う、あるいは何百万人の病気を治す喜びが、私たちを支えているのです。

 

興味がわいたら

『黄金のDNAらせん』

新井賢一、黒川清、野口照久、吉田文紀(日本経済新聞社)

入門書レベル。遺伝子工学とバイオテクノロジーの現状と今後の展望について解説している。

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『Nature 科学 系譜の知』

竹内薫:監修(実業之日本社)

過去10年間に科学雑誌『Nature』に掲載された最先端の生命科学や医学情報を分野毎に紹介。専門的な領域をわかりやすく解説している。

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『実験医学バイオサイエンス シリーズ』

(羊土社)

発刊は古いが、細胞生物学や分子生物学を基礎から臨床応用まで解説。入門書として。

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『動的平衡』

福岡伸一(木楽舎)

生物学の進歩を生物学者と第三者の両方の視点から解説している。読み物としておススメ。

[出版社のサイトへ]

 

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