この仕事をするならこんな学問が必要だ<鉄鋼業界編>

新素材が登場しようとも、鉄のニーズは不動。特長のある鉄鋼材料を生み出す面白さあり

新日鐡住金株式会社

基礎研究所 経営企画部 新素材事業本部(在籍)佐藤公隆さん

 

第2回 鉄の含有成分を自在に操る~世界を驚かせた、様々な画期的な製鉄研究とは?

鉄という金属のキモとなる特色は、鉄を中心に20種以上の元素の合金であることです。私は鋼材料の性質を決めるこの化学的な成分研究をしております。特徴ある鉄を作り出そうとする技術者魂を持って臨んできました。

 

もう何10年も前の話になりますが、鉄にバナジウムをいれた極寒冷地用のパイプラインを手がけたことがあります。アラスカの地下や地上をつないでいく石油パイプラインを作るのに、鉄の成分研究をする中で、ほんのわずかバナジウムを入れて、耐寒性の鉄を作ることに成功しました。

 

要は環境条件が変わると、鉄の使い方も全部変わってくるのです。今、バイオ燃料を自動車や飛行機に使おうとしています。あの燃料を貯蔵するタンク部分の皮膜に鉄を使うのですが、その部分は腐食しやすい。それで鉄の成分を変え、特殊な表面処理をすることによって耐食性の鉄にすることができるんです。

 

鉄はいろんな元素の合金だと言いましたが、逆にほぼ100%鉄というものも、今や作り出せます。なんと99・999%が鉄成分。これをファイブナインといいます。ファイブナインは日本生まれの「超高純度鉄」です。高温に強くさびないという優れた特性を持ち、最近、世界標準物質として認定されました。世界で最も純度の高い鉄として世界で公式に認められたというわけですね。

 

 

炭素繊維が話題だが…

 

近年、鉄より強くアルミより軽いと世間で騒がれている素材に、炭素繊維があります。航空機や次世代自動車、高速道路の補強材などの有望素材として注目されていますが、私たち製鉄の技術者から見ると、実情はまだまだです。

 

ある技術比較によると、炭素繊維は温度が変わっても、鉄と異なり、ほとんど寸法が変わらないことが問題になるといいます。炭素繊維と鉄をネジでつなぎ合わせると締結部分にひずみが発生し、たてつけ性やスキマの悪化が発生する、水漏れやヒビわれといったトラブルになりかねないというのです。

 

そして、炭素繊維はキロ5000円というコスト高が、最大の弱点です。それに対して、鉄はキロあたり数10円!です。せめてキロ100円くらいの炭素繊維ができないことには話にならない。また鉄鋼生産は1億トン(年)に対し、炭素繊維は7万トンです。日本の炭素繊維のメーカーは、大規模なプラントを作って量産化をしようとしているようですが、何万トンの生産量のプラントを作ろうとすると投資が莫大になってしまう。まだまだ量産化はできないんです。

 

鉄が炭素繊維より優れている点は他にもあります。まず鉄は鉄鉱石から高純度・高性能な鋼板、丸棒、H鋼等様々な形状が容易に得られます。それから加工時の端材はリサイクルできます。これに対して炭素繊維はリサイクルできません。その廃棄物の大半は埋立処理です。鉄に変わる夢の新素材とマスコミを騒がしても、まだまだ鉄の地位はゆるがないものなのです。

 

この業界に興味を持ったら

『金属材料の最前線 ―近未来を拓くキー・テクノロジー』

東北大学金属材料研究所(講談社ブルーバックス)

材料科学の研究は、実用研究としての側面と基礎研究としての側面を併せ持ち、地球上に存在する人類に役立つ多くのものが何らかの材料でつくられているため、社会的にも学問的にもその果たすべき役割は極めて大きく、21世紀のエネルギー問題や環境問題を解決するためにも大きな期待が寄せられている。本書では、最先端の研究成果とその研究の意義をベースにして、今これらの分野で注目されている課題に力点をおき、これらの材料の性質、構造、特徴、主な使い道、研究の課題などを説明しながら、社会にどのように役立っているか、今後どのように社会に役立つかを、わかりやすく解説したもの。

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『金属のキホン ―イチバンやさしい理工系シリーズ』

田中和明(ソフトバンククリエイティブ)

著者は、鉄をつくる現場を知り尽くしており、できる限りわかりやすく、金属の魅力を具体的な製品から解説している。

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『カラ-図解 鉄と鉄鋼がわかる本』

新日鐵住金編(日本実業出版社)

鉄づくりのそれぞれの工程の専門家が、オールカラーの図と写真を豊富に盛り込みながら鉄ができるまでを紹介。

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『鉄の歴史と化学』

田口勇(裳華房)

著者は、新日鐵に在籍した化学系研究者であるが、後年国立歴史民俗博物館教授に転じ、活躍された。鉄に関係した啓蒙的著述も多い。

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