この仕事をするならこんな学問が必要だ<鉄鋼業界編>
新素材が登場しようとも、鉄のニーズは不動。特長のある鉄鋼材料を生み出す面白さあり
新日鐡住金株式会社
基礎研究所 経営企画部 新素材事業本部(在籍)佐藤公隆さん

鉄鋼業はかつて日本の高度成長を支えた花形産業と呼ばれました。しかし、実は鉄鋼業はまだ今後も伸びる可能性の大いにある産業だということを知ってほしいと基礎研究所(現・先端技術研究所)に在籍した佐藤公隆さんは言います。新日鉄住金は世界トップのミタル・スチール社に次いで世界2位。佐藤さんは、研究所で、ビル、橋、船あらゆる鉄の新素材の開発に関わる仕事をしてきました。佐藤さんに、最新の鉄鋼事情、新しい鉄の産業ニーズと、必要とされる学問について、伺いました。
第1回 たたらと近代製鉄の物語 ~鉄がどれほど日本に、世界に、貢献してきたか

鉄が日本のどれほど貢献してきたかから話すことにしましょう。日本の製鉄の歴史は、出雲神話の「たたら製鉄」まで遡ることができます。明治時代まで1000年以上の間、たたら製鉄は、中国地方を中心に栄えました。明治32年(1839年)、その中心地であった島根県に、雲伯鉄鋼合資会社が設立され、ここに日本における「鉄鋼」の概念が成立しました。明治34年(1901年)、日本における近代鉄鋼業は、その技術をドイツから輸入し、設立された官営八幡製鉄所の操業により始まります。
たたら製鉄とは、鉄鉱石の鍛造とふいごによる製鉄技術のことです。約1500度の高温で鉄鉱石を溶かして、ふいごで製鉄反応に必要な空気を送り込みながら、トントン叩いて鉄を作る方法です。日本刀がこの方法で作られてきたことで有名です。
これに対して、近代的な製鉄法は、高炉―製鋼(転炉)―圧延というプロセスを経ます。高炉は製鉄所の主要な設備で、鉄鉱石から還元反応で、不純物を取り除き、銑鉄を取り出します。銑鉄はそのままでは固くてもろいので、粘り強さを持つ製鋼プロセスを経ます。最後に圧延によって、鉄を板・棒・管などに加工してできあがります。
この中の高炉は、いわゆる鉄溶鉱炉とも呼ばれ、大型の高炉では高さ100メートルを超え、近代製鉄のシンボル的存在です。高炉は、鉄の量産を可能にし、近代製鉄を推進しました。言い換えると、不純物を用途に合わせて除去し、量産する技術として近代製鉄は存在するのです。
もう1つの重要なことは、鉄鋼という金属の最大の特色は、鉄を中心に20種以上の元素の合金であるということ。いろんな元素の含有率の違いによって、様々な特色ある鉄鋼が生まれています。
こうして鉄鋼は、ビル、橋梁、船などあらゆる構造材として、日本の産業の花形となりました。みなさんが知っていそうな新日鉄住金の作った鉄の有名な構造物には、例えば、神戸―淡路島を結ぶ世界最長の吊り橋、明石海峡大橋、東京湾を横断し神奈川―千葉県を結ぶ高速道路、東京湾アクアラインがあります。
構造材として大きな比重を占めるのは、自動車です。住金(住友金属)を合併する前の新日鉄時代の生産量の40~50%を自動車用圧延鋼鈑が占めていました。いかに軽くて強い鉄を作るか、たゆまぬ課題でした。現在も日本の製鉄技術は世界トップクラスなのです。
この業界に興味を持ったら

『金属材料の最前線 ―近未来を拓くキー・テクノロジー』
東北大学金属材料研究所(講談社ブルーバックス)
材料科学の研究は、実用研究としての側面と基礎研究としての側面を併せ持ち、地球上に存在する人類に役立つ多くのものが何らかの材料でつくられているため、社会的にも学問的にもその果たすべき役割は極めて大きく、21世紀のエネルギー問題や環境問題を解決するためにも大きな期待が寄せられている。本書では、最先端の研究成果とその研究の意義をベースにして、今これらの分野で注目されている課題に力点をおき、これらの材料の性質、構造、特徴、主な使い道、研究の課題などを説明しながら、社会にどのように役立っているか、今後どのように社会に役立つかを、わかりやすく解説したもの。
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『金属のキホン ―イチバンやさしい理工系シリーズ』
田中和明(ソフトバンククリエイティブ)
著者は、鉄をつくる現場を知り尽くしており、できる限りわかりやすく、金属の魅力を具体的な製品から解説している。
[出版社のサイトへ]


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