この仕事をするならこんな学問が必要だ<食品業界編>

食品会社を支えるのは、農学系、生物系だけじゃない。あの「鍋キューブ」の開発にも工学が活躍

味の素株式会社 

食品研究所 商品開発センター 坂下俊行さん

 

第3回 料理が苦手な人がいてもいい。加工食品の大量生産には工学的センスが必要

将来、食品業界を志望する高校生のみなさんにアドバイスしたいことがあります。食べることをおろそかにしないでください。料理が得意でなくても外食中心の食生活でもかまいません。ただ生活の基本的な姿勢として、何を食べても意識して食べて欲しい。意識して食べていれば、それはなぜだろうと思ったり味を記憶していたりして、そこで学ぶことがあると思います。

 

料理を作るのが苦手という人がいてもいいのです。あまりに料理が好きな人は、作るのが簡単な料理を作るという発想が出てこなかったりします。つまり、商品開発へのモチベーションから考えて、料理が苦手という人材も必要なのです。

 

1人ずつブースで区切られた官能評価室
1人ずつブースで区切られた官能評価室

当社の入社志望者は、農学系の人が圧倒的に多いです。ただし大学時代の専門を活かせるとは限りません。私自身は、農学出身で、大学では牡蠣の養殖を研究していましたが、入社して一時期、オイスターソースの担当をしていたことがあります。私は牡蠣の養殖には詳しいのですが、オイスターソースの技術は牡蠣を加工する話なので全然関係ない。あるいは大学で稲作を専門にしていた人が、入社したらカツオ節の作り方の担当になったなんてこともあります。

 

農学といっても食品の加工に関する知識を持つ人材が求められ、大学で学んだことと会社の仕事との間にギャップはつきものです。

 

商品開発には、1億個作っても全てが同じ品質でかつ安全ということが、非常に重要です。農学出身の私も、当社に入ってすごく工学的な考え方が身についたと思っています。大量生産を前提にしている食品会社には、工学的なセンスのある人が必要です。品質を管理するというのは、いかに確率論的にものを考えられるかということで、それは工学の考えなのですね。その意味では化学工学的な人材を求めています。感性だけではダメで、同じものを大量に粘り強く作り続けることができる工学的な考え方が必要なのです。

 

おわり

 

この業界へ人材輩出をしている大学の学部・学科

◆農学部の食品に関わる学科(食品化学、食品生物科学、食資源科学など)

食品成分の機能研究(呈味、栄養、生理活性)、食品加工法の研究、醸造・発酵の研究、殺菌・静菌技術の研究が有用。ここからの出身者が、食品業界では圧倒的に多数派。

 

◆水産学部(海洋生命科学部、水圏生命科学部など)の食品に関わる学科(水産化学、食品生産化学、応用生物化学など)

食品成分の機能研究(呈味、栄養、生理活性)、食品加工法の研究、殺菌・静菌技術の研究が活きる。食品業界では多数派。

 

◆家政学部(生活科学部、生活環境学部、栄養学部)の食品に関わる学科

食品成分の機能研究(呈味、栄養、生理活性)、食文化・食生活研究が活きる。食品業界では多数派。

 

上記は、食品について徹底的に学び、考えるので、就職しても意識のギャップに悩まない。学生時の専攻テーマをそのまま業務となることは少ないが、就職後の業務へのスムーズな移行が可能であると思われる。

 

◆工学部の化学工学科

粉体・液体の物性制御の研究は、加工時の食品の変化を物理・化学的に解明するのに必須な学問分野で、食品の形態に関わらず役に立つ。

 

ミニインタビュー

味の素株式会社 

食品研究所 商品開発センター 

坂下俊行さん 

 

◆大学での研究・学んだことは、今の業務にどうつながっていますか。

 

大学では「与えるプランクトンによって牡蠣のエキス成分を変化させ、おいしい牡蠣を育てる」というテーマで、牡蠣の飼育、食品の呈味成分分析、水産物の衛生管理、官能評価法などについて学びました。一方、会社では「配合や製法をいろいろ考えて、おいしい調味料やスープなどを作る」という商品開発業務に従事しており、牡蠣の飼育法を除けば(笑)大学で学んだ事がそのまま役に立っています。

 

大学の話に戻ると、牡蠣は通常の養殖法に較べそれなりにおいしくなったのですが、残念ながらその牡蠣が市場に出回ることはありませんでした。「世の中の人たちに自分が作ったものを食べてもらうためには、食品に関わる企業に就職した方がよさそうだ」と考えるようになったきっかけでした。

 

◆高校時代は、何に熱中していましたか。

 

熱中したのは文化祭でした。1・2年生の時は文化祭委員会として、開催日前に祭はっぴを着こんで毎日夜遅くまで準備したこと、3年生の時はクラスで喫茶店を開き、店の内装からメニュー、店員の服装までみんなで考え自作したことが印象に残る思い出です。

 

また、親が買った最新型のオーブンレンジ(オーブンと電子レンジが一台になったもの)をいじるのが面白くて始めたお菓子作りにはまっておりました。高校3年文化祭時の喫茶店は、お菓子を誰かに食べてもらいたくて提案したものです。

 

◆そのときの経験で今に生かされていることはありますか。

 

・違ったことのできる同士がチームを組んで一つの目標に向かって取り組むことの楽しさを知りました。

・他人に自分の作ったものを食べてもらって褒められると、とても嬉しいことに気づきました。

以上2点は、現在も私の仕事に対する主な動機づけになっています。

 

◆高校生が、授業や課外活動等で、この業界に関連した技術、知識(学問)関する課題研究や学習をするとして、どんなテーマ・課題が考えられますか。

 

「誰かのために、その人が喜び、その人の身体にためになる食事を真剣に考えて、1週間作りつづける。」

これをすることで、食品業界で生きていくために必要な基本動作(ニーズをつかむ、栄養について考える、おいしくなるように調理・調味する、安定した品質のものを作るなど)が身につきます。

 

興味がわいたら

『もの食う人びと』

辺見庸(角川文庫)

著者がアジア、東欧、アフリカ、ロシアなど各国を巡り、そこに住む人々に取材すると同時に同じものを食べ、その背景に迫るノンフィクション。チェルノブイリ原発の近くで放射能に汚染された物を食べ続ける人々、バングラデシュの残飯ビジネス、内戦中のソマリアにおける各国軍の食事など、極限環境下の食生活が描かれる。「食べるものの質が生活の質なのだ」ということを常に思い出させてくれる。

[出版社のサイトへ]

(C)荒川弘/小学館
(C)荒川弘/小学館

『銀の匙 Silver Spoon』

荒川弘(小学館少年サンデーコミックス)

農業高校を舞台にした漫画。人は何かを殺さなければ食べ物を得ることができない、という厳粛な真実と、食物への感謝の気持ちをまっすぐに描いている。

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プレジデント社 dancyu
プレジデント社 dancyu

『dancyu』

プレジデント社の雑誌。食べ物を作ったり食べたりすることに、これだけ大勢の大の大人が人生を賭けていることを知ってほしい。

[出版社のサイトへ]

 

『おいしさを科学する』

伏木亨(ちくまプリマー新書)

人が「おいしい」と感じることには必ず理由があることがわかり、誰かに「おいしい」と言わせてみたいと思えてくる。

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