この仕事をするならこんな学問が必要だ<化粧品業界編>

サイエンスの力で、お客さまが満足する化粧品づくりを

資生堂

田村昌平さん(前 資生堂イノベーションセンター研究推進部R&D企画グループ グループリーダー、現 資生堂中国研究所 副総経理)

 

第4回 皮膚科学をもっと発展させるには、実社会に役立つ生物工学的発想が必要

資生堂は独自の皮膚科学を大きく前進させてきました。例えば、1999年、加齢臭成分ノネナールを発見しました。ちょっと自慢めきますが、今では一般的に使われている「加齢臭」という名前も、実は、資生堂が命名したものなんです。

 

再生医療にかかわる幹細胞研究も進めています。幹細胞とは、別の種類の細胞に分化する能力を持った細胞のことで、例えば、肌の真皮にも幹細胞が存在します。真皮幹細胞は美肌を生む大元になるのですが、これまで真皮幹細胞の正確な存在箇所や特性、さらには加齢との関係などは解明されていませんでした。2004年、資生堂はその研究に着手し、多くのことを見出してきました。そのための生化学を学んだ人材もたくさん入社してきています。

 

生物系、農学系バイオ、工学系ではバイオプロセスなど、多様

 

世界最先端の皮膚科学を支える、大学の学問分野は何かという話を、もう少ししましょう。大学の学問分野で言うと、生物系の分野では、皮膚を生体と捉えた時には、ゲノムの機能を総合的に調べる学問=ゲノム科学や、基礎生物学の人材が必要です。構造生物化学、分子生物学、細胞生物学などの生物科学も重要になってきます。また生体をマクロに見た時には、人間の生物学的な特性を研究する人類学も役立つでしょう。

 

農学系バイオの人材も必要です。食品科学や応用微生物学などは、商品の微生物による腐敗や安全性の維持管理のために欠かせません。境界農学という分野の中には、応用分子細胞生物学という学問がありますが、その発想も重要です。

 

工学系では、プロセス・化学工学の中の生物機能・バイオプロセスという分野も必要になります。このように、化粧品作りには、とても幅広い学問分野がかかわります。

 

生物工学的な発想を持った人材を

 

さらに資生堂の皮膚科学を飛躍させるために、もう少し生物工学的な発想を持った人材が必要かなと考えています。生物工学とは、生物学の知見を元にし、実社会に有用な利用法をもたらす技術のこと。酒・醤油の醸造技術もその一部です。ビューティー産業においては、例えば再生医療において、実際に細胞を分化させ増やしていくことには、基礎的な知識以上に、生物工学的な発想が必要かと思います。

 

つまり単なる生物屋でなく、かといって化学でも物理屋でもない。隣接する学問のそれぞれの立場を理解し、実社会に役立つ生物工学的な発想を持った人材が増えれば、例えば当社で独自に開発して来た、肌への物理刺激を計測する皮膚計測や肌診断装置などの実際的な技術の開発ももっと継承・発展されるだろうと思いますね。

 

おわり

 

ミニインタビュー

資生堂 田村昌平さん

 

◆大学での研究・学んだことは、今の業務にどうつながっていますか。

 

大学では、仮説・検証を繰り返すといった研究の進め方を学びました。企業の研究として分野が変わっても、また研究から離れても、何かを生み出すにはこの進め方が大切だと感じています。

 

◆高校時代は何に熱中していましたか。

 

水泳と音楽(当時、結構流行ってたJ-POP)にはまっていました。

 

◆大学で、影響を受けた先生、印象に残っている先生を教えてください。

 

・池上晋教授(すでに退官しておられます)<分野:分子生物学>

学生から怖い存在と見られていたところもある、とても真面目で研究熱心な先生です。が、意外にもソフトボールが上手だったりします。研究の進め方について自分の考えを相談すると、時間を惜しむことなく議論してくれる、本当に学生想いの先生です。

 

◆高校生が、授業や課外活動等で、この業界に関連した技術、知識(学問)関する課題研究や学習をするとして、どんなテーマ・課題が考えられますか。

 

・人間は体に多くの水分を保持しているが、なぜそれを維持できているのか。人体と外界との境界にある皮膚にはどのような機能が備わっているのか。

・水と油のように一般的に混ざり合わないといわれるものを、混ざり合わせる技術にはどのようなものがあるのか。

 

この業界に興味がわいたら

『女が感じるサイエンス -美肌への誘い』

熊野可丸(丸善出版)

美しく健やかな肌を保つための基本内容や、化粧品の効用・化粧の可能性などが、わかりやすく記されています。また、化粧品には多くの研究知見や、それに基づいて開発された技術がたくさん応用されていますが、そういった研究・開発の実例にも触れています。ところどころにイラストも挿入されていて読みやすく、化粧品の研究をイメージするにはお薦めの一冊です。

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田村さんから高校生へのおススメ本

『皮膚は考える』

傳田光洋(岩波科学ライブラリー)

皮膚の捉え方が斬新で、生物の神秘を感じさせられる一冊。生物科学系を目指す方には是非読んでもらいたいです。

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『日本の曖昧力』

呉善花(PHP新書)

他国の方から見た日本の良さが記されており、自分たちは何者で、どういうことを誇れるのか、何を変えるべきかを考えるきっかけになる一冊です。

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『ハイブリッド』

木野龍逸(文春新書)

トヨタがプリウスを世に送り出すまでの開発物語。メーカーの研究・開発者を目指す方に「開発の醍醐味」、「組織のパワー」、「志の大切さ」を感じていただければと思います。

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