この仕事をするならこんな学問が必要だ

<精密化学製品・機器>

最先端の医療画像を提供するX線撮影システムや医療IoTを実現 〜写真フィルムやデジタルカメラで培った材料工学や画像工学などを基礎に

富士フイルム株式会社

R&D統括本部 メディカルシステム開発センター

鍋田敏之さん

 

第2回 世界初のX線のデジタル撮影装置を開発。材料工学やITなどの知見を結集しより鮮明な画像に

富士フイルム超軽量移動型デジタルX線撮影装置「CALNEO AQRO」(カルネオ アクロ)
富士フイルム超軽量移動型デジタルX線撮影装置「CALNEO AQRO」(カルネオ アクロ)

私自身は長い間、メディカルシステム開発センターという部署で、X線撮影装置、すなわちレントゲン撮影装置の開発に携わってきました。皆さんが、学校の健康診断で胸部X線検査を受けるときの装置です。病院で使われる最先端の装置は写真のようなものです。

 

世界初のデジタル化に成功

 

X線撮影装置は、X線を発する装置と、身体に密着させて身体を透過したX線を受光する装置(胸部X線検査のときは、胸に当てる部分)に大きく分かれます。X線撮影は、新興国などでは、まだレントゲンフィルムを使用しているところもありますが、大半はデジタル化されています。当社はレントゲンフィルムに替わる特殊な感光プレートを用いた世界初のデジタルX線画像診断システムFCR(Fuji Computed Radiography)を1981年に開発し、世界初のデジタル化に成功しました。アナログのレントゲンフィルムにあたる「イメージングプレート」という蛍光無機材料の受光デバイスにX線を照射しX線画像情報を記録します。続いて、イメージングプレートを装置で読みとり、診断目的に合わせて最適な画像処理を行うことで、高精度のデジタル診断画像を生成するシステムです。

 

続いて開発したのが、現在主流となっているDR(Digital Radiography)というシステムです。これは、X線画像診断装置に内蔵されているフラットパネルディテクターが、X線を感知すると電気信号を発生し画像を形成します。このシステムは、イメージングプレートに一旦情報を記録することなく、被写体を通過して照射されるX線エネルギーを電気信号に変換し、その電気信号をコンピュータが検出して画像化するシステムです。

 

受光装置の表面制御で、鮮明な画像を実現

 

もう少し技術を説明すると、フラットパネルディテクターは、シンチレータ層(X線を受けると光を発する蛍光材料)とTFT(Thin Film Transistor)パネルという受光素子が並んだパネルからなります。シンチレータは、Csl(ヨウ化セシウム)という無機化合物で、蒸着(高熱にして気化させて、TFTパネル上に膜を作る技術)により、柱状の結晶を成長させて層を形成しています。シンチレータ層を作るには、蛍光材料を粉々に砕いて塗る方法もあるのですが、これだと小さい結晶がばらばらな方向を向いているため、光がまっすぐ通らず、画像がぼけてしまいます。ところが、柱状結晶が整然と並んでいる膜では、光が柱状結晶の中をまっすぐに通り、鮮明な画像を得ることができます。

 

そしてこれまで、TFTパネルは、デバイス(装置)全体の一番下に配置していましたが、光は下に行くほど減衰して暗くなってしまいますので、私たちはTFTパネルをX線が入ってくる側に配置して、光の信号を受け取るようにすることで、より鮮明な画像を得ることに成功しました。発想は単純なのですが、この技術で特許も取得しました。

 

TFTパネルをデバイスの下に配置した光学イメージ(左)と、表面に配置した光学イメージ(右)
TFTパネルをデバイスの下に配置した光学イメージ(左)と、表面に配置した光学イメージ(右)

このようにTFTパネルには、物性物理、無機材料・有機材料等の材料工学、ナノテクノロジー、光学、半導体デバイス、電子回路、ITなど様々な学問分野の技術が詰まっています。

 

そして、これらの技術を搭載したのが「カセッテDR」という製品です。次回は「カセッテDR」についてお話しします。

 

この業界/職種に関連する技術分野として「医用画像処理」を学べる大学

興味がわいたら

『クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』

デイビッド・ケリー、トム・ケリー 千葉敏生:訳(日経BP社)

発見・発明は、しっかりと準備し心構えがあるものだけが遭遇するセレンディピティーであると解いた良本。「天才的ひらめきが訪れるのは、単に挑戦する回数が多いだけ。もっと成功したいなら、もっと失敗する心の準備が必要だ」といった失敗のパラドックスの思考は、開発者に勇気を与える。

また、「何かをやってみる」という考え方を一貫して説いており、最終的に創造の飛躍を遂げるためには、とにかく始める必要があり、決して傍観者にならないことだ、という説は、研究開発やサイエンスに携わる者の原点といえる考え方である。

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クレイトン・クリステンセン 玉田俊平太:監修、伊豆原弓:訳(翔泳社)

企業は競争相手より優れた製品を供給し続けるべく、性能改良にリソース割くあまりオーバースペックの製品開発をせざるを得ない状況に陥る。他方、最初は一見性能で負けているイノベーションや破壊的製品を軽視してしまい、結果既存企業が潰れていく。そうした失敗をロジカルに説明。性能改良といったリニア思考ではなく、イノベーション・エクスポネンシャル思考の重要性が理解できる良書。

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『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』

バーバラ・ミント 山崎康司:訳(ダイヤモンド社)

論理的な説明、体系的な整理の重要性とその方法を記載した良本。ピラミッドの構造のように問題解決を上位から理解し、ポイントをしっかり腹におとしてから課題解決に取り組むといった、効率的な問題解決手段とわかりやすいプレゼンスキルを獲得できる。

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