悩めるコペル君に、叔父さんの刺さるメッセージ
『君たちはどう生きるか』吉野源三郎
海老沼陸くん(東京都・高輪高校2年)

中高生の時期は思春期で、みんな人間関係や自分の将来に関する悩みや疑問を抱えていると思います。そんな時に、わだかまりを解消してくれたり、気持ちを楽にしてくれたりするものが、自分にとっては本です。それまで本を読むことはほとんどありませんでしたが、ある本との出会いから本を読むようになり、人生を変えるきっかけにもなりました。その本が、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』。刊行から70年以上たっていますが、2003年の「私が選ぶ岩波文庫ベスト100」において第5位に入るほど人気があります。
後書きには、こんなことが書いてあります。「『君たちはどう生きるか』はその題名が直接示すように、第一義的に人間の生き方を問うた、つまり人生読本です」。「非常に難しそうだなあ」とか思う人がたくさんいるかと思いますが、この本は、随筆文や論説文ではなくて小説。コペル君こと本田潤一という主人公の成長物語です。コペル君が、身の回りに起こるいろいろな出来事や疑問について叔父さんと交換日記のようなことをし、アドバイスを受けながら成長していきます。
僕がこの本を勧める理由は、大きく二つあります。まず一つめ。例えばこんなエピソードがあります。ある雪の日の校庭で、コペル君たちは雪合戦をしています。そのとき、コペル君の友達の一人が先輩の作った雪だるまに当たって壊してしまいます。先輩は怒って、見物人たちに「他に共犯者はいないか」とたずねます。コペル君は本当は手を挙げるべきなんですが、怖くてできません。結局、他の友達は手を挙げ、先輩たちに殴られぼろぼろの体を引きずりながら保健室に向かいました。コペル君は、それをただ後ろから黙って見ているだけ。つまり友達を裏切ってしまったんです。皆さんにもそういうことはあるかと思います。僕にもあります。このような、自分たちも体験するかもしれないようなことが多く盛り込まれていて、自身を投影しやすく、それでいて心に刺さるエピソードが多いです。
この後コペル君はそのことを叔父さんに相談してアドバイスを求めます。それこそ僕が勧める二つめの理由、叔父さんとのノートです。この叔父さんというのが非常にすごい人で、例えば、ノートの中で「駄目じゃないか、コペル君」とか「その意味をよく考えていくようにしたまえ」という、ちょっと古めかしい言葉を使うのですが、その語り口調でまるで自分が言われているような錯覚を覚えます。

それに対して、叔父さんはこう言います。「たとえ絶交されたって、君としては文句は言えないんだろう? だから、だからね、コペル君、ここは勇気を出さなきゃあいけないんだよ。どんなにつらいことでも自分のしたことから生じた結果なら、男らしく耐え忍ぶ覚悟をしなくちゃいけないんだよ。考えてごらん。君が今度やった失敗だって、そういう覚悟ができていなかったからだろう?
いったん約束した以上、どんなことになってもそれを守るという勇気が欠けていたからだろう?」 このように、非常に考えさせられる話がてんこ盛りです。
<2014年度全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>※学年は取材時
さ・ら・に・海老沼陸くん おススメの3冊

『疾走』
重松清(角川文庫)
中学生という不安定な年頃の少年が、少しずつ大人になっていく姿に感動しました。
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『新世界より』
貴志祐介(講談社文庫)
三部作構成でとにかく圧倒的なスケール。近未来の東京という設定が好きです。
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『受験脳の作り方』
池谷裕二(新潮文庫)
脳科学の視点から、暗記しやすくなる方法を伝授。日頃の勉強のよりよい効率化に役立ちました。
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海老沼陸くんmini interview
きっかけ
本好きになったのは、高1のとき、今回紹介した『君たちはどう生きるか』を読んだのがきっかけです。
小学生のころ
「怪談レストラン」シリーズ。怖いものが好きでした。
これから
三島由紀夫さんの本が読みたいと思います。