アメリカ研究(アメリカ憲法史、日米関係論)
集団的自衛権を語るなら憲法とは何かを考えてみよう~大学で何をまなぶのか
阿川尚之先生 慶應義塾大学総合政策学部

憲法とは? 〜アメリカを事例に考えてみよう
『憲法で読むアメリカ史』
阿川尚之(ちくま学芸文庫)
アメリカ合衆国憲法は、民主主義としての国のあり方を規定した憲法としては、世界で一番古い憲法とも言えます。ここでは、アメリカが憲法とともに歩んできた困難な道のりを最高裁が下した判決を通して振り返ります。集団的自衛権容認の解釈の変更等の論議が活発な中、アメリカという国を憲法から学ぶことの意味は大きいでしょう。企業での法務業務やアメリカのロースクール、アメリカの日本大使館勤務などを経てきた阿川先生が、まさに研究してきた分野です。
第1回 集団自衛権の行使容認になぜ賛成? なぜ反対?

私の専門は実はアメリカ合衆国憲法です。そもそも就職した日本の会社でアメリカ法に関係する仕事をし、それがきっかけでアメリカのロースクールへ行って勉強したことから、回りまわって慶應義塾大でアメリカの憲法を教えています。けれども、今日は、みなさんの関心が高い日本の憲法について話をしようと思います。いったい憲法って何かということを考えてみる。それで何がわかるということではなくて、考えるってどういうことなのかを考えてみようと思います。私は大学の授業でいつも学生諸君と対話をしながら一緒に授業を進めているので、今日もみなさんと一緒に考えてみたいと思います。
最近話題になっている集団的自衛権の話をしましょう。お聞きしますが、集団的自衛権の行使の容認に賛成の人、手を挙げてください。うん、なるほどね。堂々と挙げてくださいね。じゃあ反対の人。多いですよね、なるほどね。賛成って手を挙げた人、キミは、なぜ賛成なのですか。
●高校生:アメリカとの安保条約があって、日本だけ守ってもらえるという状況では、有事の際にアメリカ国民や議会が「一方的にアメリカ国内から軍を出すのは良くない」となってしまうけど、そんなときに、「日本も有事の際にはアメリカを助けます」という相互関係があったら理解してもらえると思うからです。
かなり勉強していますね。アメリカに日本を守ってもらうためには、日本もアメリカを守らなきゃいけない。お互い様だということですね。では、反対の人。なぜ反対ですか。
●高校生:戦争を経験している人が少なくなっているのに、こういう戦争への考えがいきがちなことを容易に決めていいのか。「ちょっと待った」ってストップをかける人が少なくなっていく状況になっていることがわかっているのに、こんなにさらっと決めていいのかなって思います。
日本が戦争を最後にやったのは、70年近く前。だんだん戦争のことを記憶していない人が多くなっていく中で、あえて戦争にいきがちなことを決めていいのかという意見です。では、決めるってどういうこと?
●高校生:一度決めたら、それをやっぱり「これは集団的自衛権じゃないです」っていう解釈を変えるのも難しいと思うので。
では、最初に誰が集団的自衛権はだめだと決めたの? それで今度解釈を変えるっていうのは誰が変えたの?
●高校生:本当は世論というか、国民の意見じゃないといけないと思うけど、実際は内閣とか総理大臣とかの声が大多数なんじゃないかなと思います。
いったい誰が行使を容認しないと決めて、今度は誰がどういう権限で行使を容認すると決めるんだろうか。世論が決めるっておっしゃったけど、世論ってそういうことを決めるものなの? 世論調査をしてして90%の反対、じゃあやめましょうと決めるものなのかな。どなたか意見ありますか。…急に手が挙がらなくなりましたね。
非常に貴重なご意見が出てきました。集団的自衛権の行使の容認に賛成の人は、国際社会で日本が生きていく上で何をすればいいのか、という観点から考えて、集団的自衛権の行使を容認したほうがいいんじゃないか、特にアメリカとの関係でいえば容認したほうがいいんじゃないかという意見でした。一方で反対の人は、一部の人が決定することによって、下手をすると日本が知らず知らずのうちにまた戦争に行ってしまうんじゃないか、それで反対だということを言われました。
賛成か反対かというのは、何を問題と捉えるかによって異なります。集団的自衛権の行使を容認すべきだという考え方は、国際情勢を見た上で日本が自らの安全を保障するという目的を実現しようとするとき、方法についての問題を抱えている。だから問題の解決の方法として、容認に賛成だというわけです。
集団的自衛権行使の容認に反対の人は、そもそも「戦争にいかない」というのが目的なのだから、集団的自衛権の行使を容認すると、その目的実現に対して否定的に働くのではないかという懸念がある。戦争に行かないという目的を実現するには、集団的自衛権は行使しないほうがいい、したがってその容認には反対と考えるわけなのです。
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憲法とは? 〜アメリカを事例に考えてみよう
『憲法で読むアメリカ史』
阿川尚之(ちくま学芸文庫)
憲法としては、フランスの人権主義憲法が有名だ。しかし、アメリカ合衆国憲法はそれよりも古く、民主主義としての国のあり方を規定した憲法としては、世界で一番古い憲法とも言える。50州の連邦制という独自な国をまとめる憲法で、アメリカという国の本質も、その際の憲法の意味も理解できる。ここでは、アメリカが憲法とともに歩んできた困難な道のりを最高裁が下した判決を通して振り返る。200年以上、続いた最高裁こそ、まさに合衆国の歴史を形作ってきたのだ。
憲法の運用については様々な論議の連続であり、「連邦と州での権限争い」といった地方分権に関わる問題、南部再建と解放された奴隷の処遇、労働者の福祉と資本家の財産権の葛藤。第一次大戦・大恐慌・第二次大戦のもとでの大統領の権限拡大。黒人差別、政教分離の問題、そしてプライバシーや女性に関する新しい個人の基本的権利――。そういう中で、リンカーンやルーズベルトが違憲の行動をしていたなどの事実にも触れる。
集団的自衛権容認の解釈の変更等の論議が活発な中、アメリカという国を、憲法という立場からの関連で、学ぶことの意味は高い。企業での法務業務やアメリカのロースクール、アメリカの日本大使館勤務などを経てきた阿川先生が、まさに研究してきた分野。
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憲法の本質を、今だから、AKB48と考える
『憲法主義:条文には書かれていない本質』
内山奈月、南野森(PHP研究所)
憲法を暗唱するアイドル・AKB48の内山奈月さんが、気鋭の憲法学者にマンツーマン講義。アイドルの「恋愛禁止」は憲法違反か、など身近な話題も取り上げつつ、国民主権と選挙、内閣と違憲審査制などについてわかりやすく、かつ真正面から論じている。内山さんは、武道館でのコンサートで内山さんは憲法48条と100条をスラスラと披露。内山さんは「AKB48の活動には、この憲法講義で学んだ内容と共通する部分がたくさんあるように感じたのです。AKB48には、『選抜“総選挙”』があること。ネットや握手会を通じたメンバー・スタッフとのコミュニケーションによって、ファンの皆さんの意見を反映する『民主的正統性』を重視していること。メンバーにはSNSや握手会などでの『表現の自由』が与えられていること。これはAKB48グループの大きな特徴です」と語る。その内山さんに講義する南野先生は、九州大法学部で憲法などを教えている。人権主義のフランス憲法の第一人者であり、平和主義の憲法の推進訴える樋口陽一先生(東北大学から東京大学へ)の流れを汲む若手で、フランスの憲法の研究をリードする。
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日本国憲法はどのように生まれたかわかる
『日本国憲法誕生記―シリーズ戦後史の証言・占領と講和〈4〉』
佐藤達夫(中公文庫)
著者は憲法草案作成のときに、GHQの起草者と直接交渉をした人物。昭和21年3月4日からGHQで行われた最終調整場面では、日本人としてただ一人孤軍奮闘、一国の基本法をめぐりわたりあった。この夜のエピソードを始め、日本国憲法が生まれる瞬間を、実に生き生きと、わかりやすく描いている。考えさせられることが、実に多く、高校生にぜひ読んでほしい。

与えられた日本国憲法で、日本人が育てられたことがわかる
『憲法の「空語」を充たすために』
内田樹(かもがわ出版)
日本国新憲法は、「日本国民」の名のもとに米国から与えられざるを得なかった。中身としては理想的・未来的なすぐれたものでありながら、存在理由として脆弱である。ただし、大事なことは、それでも「戦争で手を汚すことがない」70年という時間を持てた。そこにノーベル平和賞に値する価値があり、それを守ったことこそが「日本国民」というものを「つくりそだてた」と著者はいう。そんな日本人と、103条の日本国憲法の関わりを学んでいくことは、改憲論や解釈拡大等で論議が活発な中、深く改憲や政治のことを考えられるきっかけを示してくれる。
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憲法9条、戦争放棄を裏側から考えさせる
『海の友情―米国海軍と海上自衛隊』
阿川尚之(中公新書)
この本では、海軍が、戦場でまみえた相手であるアメリカ海軍に対して、実は意外なほどの尊敬と共感を抱いていたことが記されている。それは、戦後の海上自衛隊にも脈々と受け継がれ、彼らの協働態勢が、日米同盟を基底で支えてきた。本書は、日米関係の中で特異な地位を占めるこの海の絆を軸にしながら、旧帝国海軍の英雄たちと異なり、ひたすら訓練に励み、戦うことなく名も知られぬまま去った海上自衛隊指揮官たちの誇り高き姿を綴る。平和の維持にとって、防衛のための軍隊や自衛隊とはどういうものなのか考えていくことが、大きな意味があることがわかる。
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