スーパーマリオブラザースやポケモンGOなどのゲームは、なぜ人を夢中にさせるのか
~日本のモノづくりの推進力になる「ゲームニクス」はキミの発想力も変える
サイトウ・アキヒロ先生
亜細亜大学 都市創造学部 教授/藤田保健衛生大学 客員教授

日本のゲームはなぜ面白いのでしょう。世界的なゲームクリエイターでもあるサイトウ・アキヒロ先生は、ゲームの根底には、日本の「おもてなしの心」があると言います。サイトウ先生は、任天堂やソニー・インタラクティブエンタテインメントなどで多数のゲームをディレクションしてきました。そして、「ゲームの面白さの秘密=ゲームニクス」を応用すれば、世の中はもっと便利にもっと楽しくなるのだそうです。
ゲームが好きな人だけでなく、ゲームをやらない人も、「ゲームニクス」は必見!日本のゲームに詰まった面白さのノウハウについて、灘中学校・高等学校の有志メンバーと語り合いました。
おススメ本は、
サイトウ先生の著書『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP社)
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第1回 なぜ一般の製品にゲームのノウハウは必要なのか

僕は、最初は広告会社でコマーシャルの制作の仕事をしていました。
君たちのお父さんやお母さんは覚えていると思いますが、ペンギンが「Sweet Memories」を歌ったサントリービールのTVCM(1983年)や、東京ディズニーランドのオープンコマーシャル(1983年)も僕が作ったものです。20代前半でいつかの広告賞を受賞したりして、「俺のセンス、最高じゃん」と思っていました。それが23歳の時に、昨年7月に亡くなった任天堂のもと社長の岩田聡さんと出会い、彼に誘われるままにゲームの仕事もするようになりまた。
それは1984年のことで、ゲームと言えば、ファミコンの時代でした。当時、岩田さんはプログラマーで、僕は美術大学出身で絵が描けるため、「一緒にゲームを作って任天堂に売り込みにいきませんか」と誘われたのです。そして、そのゲームが任天堂で採用され、僕のゲーム作りが始まりました。
当時の任天堂は、いろんな玩具を作っている京都の小さな会社でした。それが約30年で、世界のNintendoに成長したのです。任天堂がここまで急成長したそのノウハウは、ゲーム以外にも応用が利くと思っていました。そして、日本の産業、特にモノづくりの大きな推進力にしてほしいと思い、その方法論を「ゲームニクス」として本にまとめて発表しました。
「ゲームニクス」というのは、「スーパーマリオブラザーズ」や「ポケモンGO」などのゲームを作る時の大事なノウハウです。「ゲームニクス」という名前は私が付けました。これが日本のモノづくりを変え、皆さんのものの見方・考え方に刺激を与え、さらには日本人に対する再認識にもなるだろうと考えています。
テレビのリモコンはどうしてダメなのか

なぜ一般の製品にゲームのノウハウが必要なのかお話ししましょう。例えば、テレビのリモコン(右図の右側)には、ボタンが50個くらい付いていますが、押したことのないボタンがいっぱいありますよね。便利な機能はたくさんあるのに、誰も使いこなせていないものの象徴です。
一方、Wiiというゲームのリモコンには、ボタンが少ないですが、機能は100も200もあります。つまり、ゲームのノウハウを使えば単純なデバイスであっても、多種多様な機能を誰でも使いこなせることが実現できるのです。
銀行のATM(現金自動預入れ支払い機)は、普段はお金を引き出したり、たまに振り込みに使うくらいですね。でも、この昔のATMには「ローン申し込み」や「返済」といった、一生に一度使うかどうか、というボタンまでも同じ大きさで並んでいます。そうすると、使う人は操作に迷ってしまうわけです。

私が企画から参加した最近のATMでは、最初の画面には「引き出す」のボタンしかありません。それを押すと「カードをここに入れてください」と挿入口が光って、そこにカードを入れるとカードが入っていく絵が画面に出てきます。手順を一つずつ踏んでわかりやすく見せるというゲームのノウハウを活かしたものですが、これなら使う人が迷うことはありません。他の銀行さんも真似をするようになりました。
ゲームはインタラクティブ、すなわち双方向のメディアです。お客様のアクションに対して、必ずリアクション(反応)が返ってくるのがゲームです。例えば、テレビゲームは、タッチセンサーやコントローラーなどの外部デバイスを使って、テレビ画面を自由に操作する遊びです。そのために大事なのは、プレイヤーがコントローラーなどを使って、モニターの中の情報といかに気持ちよくやり取りするかということです。

任天堂では「情報の循環性」という言葉をよく使います。「情報の循環性がよくない」というのは、気持ちよく進んでいかない感じのことです。そういう目で見ると、先ほどお話しした銀行のATMも、モニターの中の情報といかに気持ちよくやりとりするかという点では同じなのです。


テレビゲームはマニュアルを読まなくても面白く遊べるように作られています。そして、いつの間にか段階的に攻略方法を学習してクリアしていきます。クリアするというのは、一般製品で言えば、機能を使い切るということです。そして、もっと先に進みたいという気持ちになって、最終的にはコントローラーの機能を全部使い切っているのですね。
「勉強は10分で飽きてしまうのに、どうしてゲームになると1時間も2時間もやってしまうのよ!!」とお母様方はおっしゃいますよね。ゲームに長時間に集中してはまってしまうのは、ゲームに夢中にさせるノウハウ=「ゲームニクス」が入っているからなのです。
サイトウ・アキヒロ先生プロフィール

亜細亜大学都市創造学部教授/藤田保健衛生大学客員教授
日本を代表するゲームクリエイター、インタラクティブメディアディレクター。前の任天堂社長の故 岩田聡氏とともに、ファミコンの黎明期から30年以上にもわたって、数多くのゲームディレクションに携る。現在は、ゲーム開発におけるインターフェースのノウハウである「ゲームニクス理論」を提唱、家電やロボット、リハビリ機器や教育分野で、ゲームニクスの応用を実践している。
著書に、『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP)、『ニンテンドーDSが売れる理由―ゲームニクスでインターフェースが変わる』(秀和システム)、『ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則』(幻冬舎新書)など。
サイトウ先生おススメの本

『危機にこそぼくらは甦る 新書版 ぼくらの真実』
青山繁晴(扶桑社)
学力は世界トップレベルなのに、自信は世界最低レベルの日本の子どもたち。日本の学校は、祖国を愛する心や、日本人としての哲学や精神を教えてくれません。真に世界に羽ばたく強い心を育むために読んでほしい本です。
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『失敗から学ぶユーザインタフェース 世界はBADUI(バッド・ユーアイ)であふれている』
中村聡史(技術評論社)
購入方法がわかりにくくて行列ができる自動券売機、服を着たままシャワーを浴びてしまう切り替えハンドル、何を入力したらわからず途方にくれてしまうウェブサービスなど、日常のBADなユーザインタフェースを取り上げて、その問題点を指摘する書籍です。具体的な解決策は記載されていませんが、ゲームニクスを用いればすべて解決できますので、私の本と合わせて読めばかなりの頭の訓練になります。
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『別冊太陽217 明治の細密工芸』
山下裕二(平凡社)
並河靖之や濤川惣助の七宝工芸、正阿弥勝義の金工、超絶技巧の刺繍、芸術品を超えた細工陶器、現代玩具よりも精緻な自在置物。明治の無名な技術者の究極の工芸品は、世界のどの工芸も追いつけない果に達しています。現代人が忘れてしまった半端ない日本人の手わざの凄さと、何事も突き詰めていく求道精神を感じてください。
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